旅よみ 俳壇 旅行読売2026年3月号
日本海へ注ぐ信濃川河口の雪景色(写真/ピクスタ)
【特選】
雪乗せて海に入れる信濃川
◉市川市 井田千明
<評>信濃川が雪を乗せたまま海へ流れ込む雄大な景です。川面の白さが流れの勢いに押され、海へと運ばれていくさまは、雪を抱いた大河が夜の海へ深く息を吐くような、静かな余韻に包まれます。
【入賞】
雲の無き筑波二峰や神の旅
◉新宿区 居林まさを
<評>神聖な筑波の山の神も出雲へ旅に出たのでしょう、初冬の澄んだ空に双峰がくっきりと浮かんでいます。季語の選びがいいですね。
大寒や確(しか)と抱き合う道祖神
◉世田谷区 石川 昇
<評>厳寒の空気の中、寄り添うように立つ道祖神の姿が温かな生命感を帯びて見えてきます。「確と」が写生に重みを与えています。
霙(みぞ)るるや氷見(ひみ)の漁港の太き声
◉足立区 太田君江
<評>霙降る冷たい漁港に競りの声が響く。行き交う漁師の太い声に、厳しい天候に負けない氷見の風土が切り取られています。
大空を確かめる旅白鳥よ
◉仙台市 星 良子
<評>抒情的な一句。白鳥が羽ばたきながら、大空の広さや方向を確かめているようだと、旅する鳥の孤高と決意がにじみます。
【入選】
地吹雪や胃の腑(ふ)に熱ききりたんぽ
◉さいたま市 竹内白熊
天狼(てんろう)や句を習ひたる師はかの座
◉相模原市 妹尾茂喜
秋天の北の大地にある憂ひ
◉川崎市 柳内恵子
大利根の魚跳ねたる冬の月
◉大田区 豊島 仁
山里の綿虫舞ひ踊りゐる
◉京都市 福地秀雄
蠟梅(ろうばい)は梅と名乗るも梅でなし
◉神奈川県中井町 竹 和世
白鷺(しらさぎ)のモンローウォーク畔(あぜ)を行く
◉神奈川県中井町 笹尾雅美
凱旋(がいせん)の乙亥(おとい)相撲の力士かな
◉松山市 友澤恭子
魂胆を見せよ沖縄新豆腐
◉東京都中央区 豊澤佳弘
手に負へぬ重たき雪や越の里
◉長岡市 安木沢修風
【佳作】
山車(だし)蔵へ入るまで奏づ笛と鉦
◉伊賀市 箱林允子
雪の富士大きく見えし誕生日
◉所沢市 木下富美子
道鉄路廃駅もあり春遅々と
◉杉並区 白浜尚子
城垣に戦火の跡や草紅葉
◉武蔵村山市 温泉幸子
東京は穏やかなりし憂国忌
◉南魚沼市 堀口順子
風の花淋しさの花冬ざくら
◉練馬区 曽根新五郎
いつも買ふ熊手お宝盛り足して
◉川崎市 石井タカミ
親子猿こころ許してゐる小春
◉大分市 高柳和弘
冬富士をぐるっと一周鉄路旅
◉藤沢市 山口浩之
第九聴く浮世絵も見て小春空
◉高岡市 大川浩史

<選者>「麦」会長 対馬康子(つしまやすこ)
香川県出身。「天為」最高顧問。現代俳句協会副会長。産経新聞俳壇選者。2015年文部科学大臣表彰。句集に『愛国』『純情』『竟鳴』『百人』など
対馬康子先生の総評
今月も、写生に根ざしながら各地の風土性や人生の陰影を豊かに映し出した佳句が多くありました。とりわけ「雪乗せて海に入れる信濃川」「大寒や確と抱き合う道祖神」など、土地の自然と人の営みが有機的に響き合うところに俳句の力を感じます。白鷺の「モンローウォーク」という捉え方も楽しいです。
対馬康子先生のワンポイント俳句講座
「春の訪れ」を詠む
日本人にとって春はリスタートの季節。その始まりを告げるわずかな気配を探し、17音に掬(すく)い上げてみましょう。北国には、雪に埋まった木の根元が丸く溶けて現れる「木の根明く」という季語がありますが、春はこのような小さな変化の積み重ねで訪れます。自然の移ろいを丁寧に観察し、日常生活の機微に心を寄せることが大切です。光の角度の変化、鳥や水の音のやわらぎ、影の薄まりなど、冬から春へ舵を切る感覚に敏感でありたいものです。有馬朗人の代表句「光堂より一筋の雪解水」は中尊寺光堂での作。その場で得た一瞬の〈音〉と〈光〉の変化に、早春の希望と平和への祈りを感じさせます。
【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。
(出典:旅行読売2026年3月号)
(Web掲載:2026年1月28日)
※連載「旅よみ俳壇」トップページはこちら


Tweet
Share