たびよみ

旅の魅力を発信する
メディアサイト
menu

旅よみ 俳壇 旅行読売2026年1月号

場所
旅よみ 俳壇 旅行読売2026年1月号

ユズ湯につかって目を細めるカピバラ(写真/ピクスタ)

【特選】

犬島の精錬所跡憂国忌
 ◉足立区 太田君江
<評>瀬戸内海の犬島にかつて存在した銅の精錬所。その跡地を保存、再生して環境への配慮がされた美術館が建てられた。日本の近代化に警鐘を鳴らした三島由紀夫をモチーフにした作品もあり、まさに憂国忌(11月25日)。「犬島」の「犬」も皮肉に響く。

【入賞】

カピバラの顔で温まる柚子湯かな
 ◉世田谷区 石川 昇
<評>カピバラは南アメリカ東部の温暖な水辺に生息し、昨今、動物園でもほんわかムードの代表です。今年一年の無事を感謝しながら冬至湯に。

天辺の石に石積む山開き
 ◉練馬区 曽根新五郎
<評>ケルンと呼ばれる山頂などの石積みの道標に新たに石を積むだけの行為だが、「天」から始まる巧みな句で天を仰ぎ、山を仰ぐ気になる。

ジンギスカン鍋高らかにのろしあげ
 ◉市川市 一言遊子
<評>ジンギスカン鍋は冬の季語。眼目は「のろしあげ」。もうもうと煙が上がるのを、戦いの始まりの合図のように狼煙(のろし)が上がったと捉えた。

歩道橋塗装の剝(は)げと蛾の死骸
 ◉神奈川県中井町 竹 和世
<評>毎日を大切に生きているということがよく表れている。句の背景には少し落ち込みながらも、状況を冷静に判断する作者も見えてくる。

【入選】

年新た船に竹立て三崎港
 ◉川口市 清正風葉
葛(くず)の風引き込み線の貨車で止まる
 ◉神奈川県中井町 笹尾雅美
うちひさす古都鎮まれる淑気かな
 ◉東京都中央区 豊澤佳弘
つくつくし物見遊山の旅急(せ)かす
 ◉江戸川区 岩井千恵子
の甍(いらか)くろぐろ月今宵
 ◉さいたま市 竹内白熊
カーナビの迷ひてをりぬ花野中
 ◉杉並区 森 秀子
日帰りを惜しむ月光比叡山
 ◉大田区 豊島 仁
雨の中案山子(かかし)と踊るツーリスト
 ◉市川市 冨山 透
小春日の笑顔が八つお散歩カー
 ◉江戸川区 一尾由紀子
砂利渡る影のもこもこ蟻の列
 ◉伊賀市 箱林允子

【佳作】

クラークの伸ばせる腕に今朝の雪
 ◉市川市 井田千明
台風やシーサー二頭括(くく)らるる
 ◉杉並区 白浜尚子
秋晴や反り屋根美しき六角堂
 ◉横浜市 相沢恵美子
キプロスのサラダにありしすべりひゆ
 ◉千葉県酒々井町 梅澤波葉
みちのくに酒倉並ぶ夕焼川
 ◉武蔵村山市 温泉幸子
村から村へ峠の紅葉越えてゆく
 ◉京都市 福地秀雄
山宿のランプ愉しむ夜長かな
 ◉成田市 小川笙力
秋高し斑鳩統ぶる五重塔
 ◉足立区 山崎勝久
蜩やイヤフォンの君遠ざかる
 ◉岐阜県八百津町 細江隆一
朝顔を咲かせ菓子店休業日
 ◉日高市 渡辺義子


俳壇選者_津髙里永子300x300.jpg

<選者>「墨BOKU」代表 津髙里永子(つたか りえこ)
兵庫県出身。「小熊座」同人。よみうりカルチャー講師。句集に『地球の日』『寸法直し』、著書に『俳句の気持』など

津髙里永子先生の総評

 選句をしながら、皆さんの俳句から、行ったことのないところの面白さ、そして地方特有の行事や習わしなど、毎回教えていただいています。
 誰にでもわかるように作ったほうが、おおぜいの人たちの共感を得る句になるのでしょうが、誰にもわからなくていいさ、というぐらいのキモチをぶつけて句にすることも忘れないでいてほしいと思っています。
 なんたって、自分の俳句ですもの。たとえば、夕日が赤く見えなくて黄色に見えたら、黄色って表せばいいですし、それが、むらさきでも黒くても、そう見えたのならそう見えた、とまずは五七五の中に入れてみるべきです。そうすれば、失敗したときの悔しさは二倍ぐらいになるかもしれません。しかし、それが究極のところ、あなたの俳句を進歩させる原動力となるのではないでしょうか。
 変に思われると恥ずかしいから、などと思って、あなたは本当に表したいことをひっこめたままにしていませんか?

 津髙里永子先生のワンポイント俳句講座

 「吟行(ぎんこう)はひとりでも出来る…」
 吟行は、俳句を作る人たち何人かで、一緒に同じところへ行って、時間を決め、何句作るかなどを決めて、それぞれに句を作ることを言います。そして、その仲間たちがどんな句を作ったのか、発表したり批評したりする場を設ける(喫茶店などで)ことが多いのですが、後日にメールなどで知らせ合ったりすることもあります。
 でも、そういう仲間がいない場合は、「ひとり吟行」をするとよいでしょう。
 公園に寄って、そのあたりの風景で、決めた数の句を作ろうと自分に課して作ってみる、それが「ひとり吟行」です。できないときには仕方ないから、季語だけをメモして帰るだけでも、じっさいに見た聞いた感じた季語が脳裏にインプットされて、あとあと、何かの拍子に句ができるかもしれません。お試しください。


【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。

(出典:旅行読売2026年1月号)
(Web掲載:2025年11月28日)

※連載「旅よみ俳壇」トップページはこちら

Writer

たびよみ編集部 さん

Related stories

関連記事