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旅よみ 俳壇 旅行読売2025年12月号

場所
旅よみ 俳壇 旅行読売2025年12月号

唐臼で陶土を丹念に搗く音が響く小鹿田焼(写真/ピクスタ)

【特選】

陶土(とうど)搗(つ)く唐臼(からうす)どんと星月夜
 ◉足立区 山崎勝久
<評>日田市の小鹿田(おんた)焼は、掘り出した陶土を乾燥させて「唐臼」と呼ばれる臼で20〜30日搗く。伝統をつなぐ「ギィ」「ドン」という響きが、星のまたたく澄んだ夜空に響き渡ります。

【入賞】

蓑虫(みのむし)の糸や出雲の大鳥居
 ◉千葉県御宿町 岡西宣江
<評>ぶら下がる蓑虫を見上げれば、その向こうに出雲大社の大鳥居。これも縁というもの。心が自由になるような旅の眼差(まなざ)しがあります。

遠ざかるねぶた囃(ばやし)や闇深し
 ◉仙台市 平山北舟
<評>あれほど賑(にぎ)やかだったねぶた囃子が背中の方でどんどん遠のいていく。そのたびに夜が濃くなるようで、祭の後のさみしさが交差する。

落葉籠(かご)猫が倒してゆきにけり
 ◉神奈川県中井町 竹 和世
<評>せっかく集めた落葉を猫が倒して「ごめんね」なんて顔もせずに行ってしまう。道すがら出会った気まぐれ猫のかわいい情景。

明け易(やす)し大浴場に昨夜(よべ)の人
 ◉伊賀市 藤下 恒
<評>早起きして大浴場に行ったら「たしか昨夜も一緒だった人だ」と、旅先だからこそ生まれる不思議な親近感。「明け易し」が効果的。

【入選】

噴水を見下ろす大屋根リングかな
 ◉伊賀市 箱林允子
初風に推されて昇は世辞
 ◉新宿区 居林まさを
呉服屋の幟(のぼり)の裏に金の蠅
 ◉相模原市 妹尾茂喜
馬歩む銀杏(いちょう)黄葉の北の街
 ◉四日市市 堀田久美子
象潟(きさかた)の駅に生まれし夏つばめ
 ◉川崎市 柳内恵子
故郷(ふるさと)や山河は眠る天の川
 ◉大田区 豊島 仁
鎌倉が好きなふたりの寺の秋
◉練馬区 曽根新五郎
去来忌(きょらいき)や一貫文の嵐明け
 ◉東京都中央区 豊澤佳弘
夏炉焚(た)き小さく生きる湯治宿
 ◉成田市 小川笙力
湯ノ湖まで木々のささやき秋澄めり
 ◉足立区 太田君江

【佳作】

頬をうつ川風かすか月見の湯 
 ◉さいたま市 竹内白熊
秋深し河童伝説残る沼
 ◉横浜市 相沢恵美子
無人駅遅延着到(ちゃくとう)小さき秋
 ◉伊予市 福井恒博
夕凪(ゆうなぎ)て琥珀(こはく)に染まる海の街
 ◉埼玉県吉見町 青木雄二
パターゴルフ花野の中に終へにけり
 ◉杉並区 森秀子
登山して一つ家の湯はみどり色
 ◉京都市 福地秀雄
風鈴の音(ね)も静かなり三春駅
 ◉茨城県利根町 中澤則明
大仏様に鋸登山無事たのむ
 ◉江戸川区 岩井千恵子
新涼や電車撮りをるカメラマン
 ◉松山市 友澤恭子
旅の湯や浴衣緩めに衿(えり)を抜く
 ◉仙台市 星良子


俳壇選者_対馬康子先生.jpg
<選者>「麦」会長 対馬康子(つしまやすこ)
香川県出身。「天為」最高顧問。現代俳句協会副会長。産経新聞俳壇選者。2015年文部科学大臣表彰。句集に『愛国』『純情』『竟鳴』『百人』など

対馬康子先生の総評 

それぞれの方の旅のまなざしを通して、各地の風物と自然が結ばれた多彩な俳句が楽しい。出雲大社や初瀬寺、象潟(きさかた)や鎌倉といった地名は、旅人の歩みをそのまま詠みに託し、歴史や伝承を背景に広がりを持たせています。また星月夜、天の川など夜の景には、移動する旅人の静かに揺らぐ心が伝わります。

ワンポイント俳句講座
「新年の俳句」

 有馬朗人の「地球といふ大いなる独楽(こま)初日の出」は、新年俳句らしい力強さを示す一句です。地球を独楽に見立てる比喩が宇宙的スケールを開き、初日の出という季語を大きな存在と響かせています。ここから学べるのは二点。第一に新年句は個人的感慨に留まらず、普遍的広がりを意識すること。第二に季語を単純に描写せず、比喩や独自の視点で立ち上げる工夫です。
 新年俳句はめでたさだけでなく、自然と人の心を重ねることで余韻を深めます。時には日常と宇宙を往還する視野を持ち、歳神様への瑞々しい祈りを託しましょう。


【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。

(出典:旅行読売2025年12月号)
(Web掲載:2025年10月28日)

※連載「旅よみ俳壇」トップページはこちら


Writer

たびよみ編集部 さん

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