旅よみ 俳壇 旅行読売2026年2月号
由布岳をバックに湯けむりがたなびく由布院温泉(写真/ピクスタ)
【特選】
由布院の湯けむり高く秋の空
◉川崎市 柳内恵子
<評>大分県の別府や湯布院を旅すると、どこからも湯煙が見える。この句はその上の秋空を写生した一句。旅心が伝わって来て臨場感たっぷりの作品。季題も効いている。
【入賞】
御遷座(ごせんざ)の朱印賜はる秋の風
◉高岡市 大川浩史
<評>この御朱印は有難い。そして秋風は心地よい。また、中七の表現が手柄であった。貴重な一句である。
宍道(しんじ)湖の蜆(しじみ)の汁をおかわりし
◉千葉県酒々井町 梅澤波葉
<評>宍道湖ならではのもの。あの蜆汁は何杯でもいける。地名が効いていて、おいしいものになった。
良き事のあり松茸のフルコース
◉杉並区 森 秀子
<評>良き事があれば豪華にやりたいところ。更に松茸のフルコースとはよほどいい事だったのだろう。この場合、この季題しかない。
初旅や機窓の富士に手を合わす
◉世田谷区 石川 昇
<評>一年の内、初めて行く旅がこの季題。誰でも富士には手を合わせる。そういう作者の心持ちが伝わってくる。
【入選】
秋夕焼仙石原に金を刷(は)く
◉上田市 中野康子
摩周湖の霧に包まれ指輪出す
◉広島市 舟木公一
千年の法燈(ほうとう)護持や京の秋
◉成田市 小川笙力
錦秋や北の大地を染め尽くし
◉杉並区 清水初香
別れ告ぐ横川(よかわ)の虚子や大紅葉
◉大田区 豊島 仁
白波の二百十日の親不知(おやしらず)
◉練馬区 曽根新五郎
大利根や声を落として鳥渡る
◉茨城県利根町 中澤則明
弘法山(こうぼうやま)百低山の初日の出
◉神奈川県中井町 笹尾雅美
潮騒の空へ透けゆくラムネ玉
◉中央区 豊澤佳弘
飛鳥路の畔たもとほり残る虫
◉横浜市 相沢恵美子
【佳作】
秋晴れや朝を震はす刻太鼓
◉足立区 山崎勝久
杉玉に誘はれ飛騨の新酒かな
◉さいたま市 竹内白熊
エアフォース訪日対談十月よ
◉松山市 友澤恭子
湖西線あと十分の寒さかな
◉所沢市 木下富美子
チェーホフを語り聞かすや柿紅葉
◉相模原市 妹尾茂喜
空風にめげず紡いだ製糸場
◉市川市 井田千明
鯖街道の古民家ホテル零余子(むかご)飯
◉足立区 太田君江
秋晴るる日本平の富士見かな
◉江戸川区 岩井千恵子
禅刹の紅葉の原に橋二つ
◉伊予市 福井恒博
錦秋の一山映し湖面澄む
◉埼玉県吉見町 青木雄二

<選者>「玉藻」主宰 星野 高士(ほしの たかし)
神奈川県出身。鎌倉虚子立子記念館館長。句集に『残響』『無尽蔵』『破魔矢』『渾沌』など。テレビ、ラジオでも活躍。
星野先生の総評
俳句はもともと挨拶が大事。だいたいの名句を読むと、その作者の心持ちがわかる。しかしながら、やはり詠む時にどんな季題を選ぶかが肝要なのは言うまでもない。
星野先生の俳句ワンポイント講座
「震災詠」
震災詠は難しい。被災地の方々と、その方々の状況などを見て俳句を作る人とでは、まったく立場が違う。わたしも最近、能登の震災からの復興をテーマにした俳句ツアーをやって来たが、被災地の現実を見ると、なかなか言葉にすることができない。そこで思ったのは、写生句は感情よりも見た景色だということだ。七尾市・和倉温泉の有名な旅館である加賀屋は営業していなかった。しかしその目の前の公園に行くと、高浜虚子の句碑は以前の通りだった。たとえば、そんな景色を見て如何に客観的に詠えるか。それが重要であることが、改めてわかった。
【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。
(出典:旅行読売2026年2月号)
(Web掲載:2025年12月27日)
※連載「旅よみ俳壇」トップページはこちら


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