【温泉は人生の句読点だ!】テニスの街に湧く、オレンジ色のニクいやつ ホテル東海荘<千葉・白子温泉>
ホテル東海荘の湯は、塩分が海水の何倍も濃いことから加水された循環使用の湯だけど、温まるいい湯でした。そしてヨウ素はうがい薬や消毒液の原料ゆえに切り傷ややけど、皮膚疾患に効能があるのだそうだ。これには秒で納得

プロフィール
岩本薫(いわもとかおる)
1963年東京生まれ。温泉研究家、作家、エッセイスト。温泉研究家といってもひなびた温泉にしか興味がない偏愛志向。主な著書に『もう、ひなびた温泉しか愛せない』『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』『ヘンな名湯』『もっとヘンな名湯』(以上、みらいパブリッシング)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)等。メディアにも多数出演。ひなびた温泉マニアのグループ「ひなびた温泉研究所」のショチョーでもある。
本当は硫黄の香りと言いたいんですよ
ときたまテレビとかラジオに温泉のレポーターとして登場するワタクシは「お、さすがは温泉街ですねぇ。ほら、硫黄の香りがしてきましたよ」なんてわざとらしいことを言ったりする。そう、そのようなことを言えと台本に書いてあったりするのだ。でも、最近ではテレビやラジオでこの「硫黄の香りがしますねぇ」っていうのが使えなくなってきているんですね。なぜかっていうと正確には硫黄自体は無臭であって、温泉に溶け込んでいる硫黄と水素の化合物である硫化水素があの香りを放っているからで、それを硫黄の香りと表現するのは化学的に間違っているからだ。
だから、最近では台本にも「硫化水素の香りがしますね」なんて書いてあったりするんだけど、それじゃあテレビを観ている人に伝わらないだろうから、とりあえず「お、ゆで卵みたいな温泉らしい香りがしてきましたねぇ」なんて言い換えたりしてるんですね。でも、本当は硫黄の香りと言いたいんですよ。だって、それがいちばん伝わるじゃないですか。なんだかメンドーな世の中になったなぁって。
さて、そんなワタクシがもし千葉県の白子温泉をレポートしたならば、きっとこう言うだろう。
「お、浴室の扉を開けたら、ほら、さっそくモワァ〜とイソジン(※)のような香りがしてきましたねぇ」
千葉県の白子町は知る人ぞ知るヨウ素の一大産地だったりする。ヨウ素は世界中の地中に存在しているものの、商業的に採掘するにはある程度の高濃度でないと採算が合わないことから、その産地は極端に偏っていて、約6割がチリ、そして約3割を我が国日本が占め、さらに国産のうちほとんどが千葉県産。正確な数値はわからないが白子町産のヨウ素がかなりの量を占めているらしい。と、ここまで書けば「イソジンのような香りがしてきましたねぇ」の意味がわかってもらえるのではないだろうか。ヨウ素はイソジンの原料で、世界的なヨウ素の産地である白子町に湧く温泉は、ヨウ素を含んだチョー珍しい温泉なのである。
今回、ワタクシがおじゃましたのは白子温泉のホテル東海荘。ここは浴室が味わい深いのだ。たぶん九十九里浜の海のイメージなのだろう。波を思わせる抽象的なタイル絵がドーンとあって、浴槽になみなみと注がれたオレンジ色っぽい湯から、甘いイソジンのような香りが湧き上がっていた。さっそく湯につかってみるとやわらかい湯触りで、独特な香りに包まれながらじわじわと体が温まっていくのがわかる。う〜ん、なかなかのオレンジ色のニクいやつだなぁ、この湯は(って、このフレーズ、今どのくらいの人に通じるんだろう?笑)。
大きな窓からは、ちょっとした観賞用の庭が見える。緑の植栽、石造りの灯籠、そしてその横には人影!むむむ?よく見ると女性の銅像みたいなのが風呂を覗くようにポツンと違和感満載で立っていた。いいなぁ、このナゾめいた違和感。こーいうのキライじゃないよ、いや、むしろ大好きです♡
※イソジン……殺菌成分があるポビドンヨードを含むうがい薬、きず薬。アイノヴァファーマの登録商標。シオノギヘルスケアが販売

ドキッ! 窓の外にまさかの人影? と思いきや、女性の銅像みたいなのがポツンと違和感満載に立っていた
地下2000メートルからの湯!
さて、白子温泉の湯は泉質だけではなく、その成り立ちも珍しい。実は地元の天然ガス採掘会社が採掘時に天然ガスと一緒に湧き上がってくる〝かん水〞(地下水)を温泉として利用しているのである。いうなれば排水の有効利用だ。で、その掘削深度はなんと2000メートル。これはかなり深いですよ。普通の温泉の掘削ではここまで深く掘らない。お金もすごくかかるし(少なくとも4〜5億円はかかるらしい)、技術的にも深く掘るほどに難易度がめっちゃ高くなる。もぉ〜普通じゃムリっていうレベルなんですよ。
白子温泉の場合は、たまたま天然ガスの掘削から出てきたかん水を温泉として利用できた。棚からぼたもちっていうか、〝棚から温泉〞だったわけ。おもしろいなぁ、ますますオレンジ色のニクいやつじゃないですか。
ちなみに、白子温泉の開湯は1989(平成元)年と歴史は浅い。だから温泉としての知名度も低い。でも、こ〜いう珍しい温泉があまり知られていないなんてもったいない。ああ〜もったいない。みなさん、ぜひぜひこのニクい湯につかりにきてくださいな。
そうそう、白子町は日本一のテニスの街とも言われていて、人口約1万人に対してテニスコートが約350〜400面もある町で、ホテル東海荘をはじめ、ほとんどの温泉ホテルがテニスコートを所有しているから、テニスと温泉をセットで楽しむのもいいかもしれない。

立派な温泉ホテルが並ぶ中で、ホテル東海荘は親しみやすい感じでホッとする。日帰り入浴もほかと比べ安い
文・写真/岩本 薫
♨今月のひなびた温泉
ホテル東海荘 (千葉・白子温泉)
◎料金:1泊2食1万3000円〜/日帰り入浴600円
◎泉質:含ヨウ素│ナトリウム│塩化物強塩泉
◎アクセス:外房線茂原駅からバス19分、中里海岸下車すぐ/九十九里有料道路白子ICから2キロ
◎住所:千葉県白子町中里4437-1
◎TEL:0475-33-2061
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2026年2月号)
(Web掲載:2026年3月9日)


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