【温泉は人生の句読点だ!】夜空には、ハトヤの矜持がエモく輝いていた ハトヤホテル<静岡・伊東温泉>
湯もよかったですよ。さすがは伊東温泉の湯! そしてハトヤは5本も自家源泉を持っているんです。大型観光ホテルの大浴場って聞くと……、ワタクシなんかはつい湯の鮮度は大丈夫?って思っちゃうけど、そんな心配は無用。エモさを求めてやってきたZ世代の女子たちも、ここハトヤで本物の温泉に目覚めてほしいと願っちゃいますねぇ

プロフィール
岩本薫(いわもとかおる)
1963年東京生まれ。温泉研究家、作家、エッセイスト。温泉研究家といってもひなびた温泉にしか興味がない偏愛志向。主な著書に『もう、ひなびた温泉しか愛せない』『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』『ヘンな名湯』『もっとヘンな名湯』(以上、みらいパブリッシング)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)等。メディアにも多数出演。ひなびた温泉マニアのグループ「ひなびた温泉研究所」のショチョーでもある。
時代が一周回って、再ブレイク
時代が一周回って再ブレイクするっていうと、芸能人とかによくある話だったりして、ときとして当初とはまったく違ったキャラとして時代に受け入れられるなんていうこともある。俳優の藤岡弘、さんなんてまさにその代表格だ。カッコいい初代仮面ライダー俳優が、今では武道とサバイバル術を盛り込んだ一風変わった教育方針で藤岡ファミリーを育てあげた、優しいけどヘンなお父さんとして再ブレイクを果たしたわけで、しかも再ブレイク時には芸名にナゾの「、」がプラスされていて、世間をざわつかせもした。
さて、実は温泉にもそんなふうに時代が一周回って、ちょっと変わった形で再ブレイクしている温泉ホテルがあるのだ。
それは、昭和世代の人なら誰もが耳にしたであろう「伊東に行くならハ・ト・ヤ 電話はヨ・イ・フ・ロ〜♪」のCMで有名なハトヤホテルである。昭和を代表する温泉ホテルであるが、そのハトヤが今、Z世代(※)の女子たちの間で「すっごくエモ〜い!」と大評判なのである。
あのハトヤがそんなことになっていると、実はワタクシ、最近知ったんです。たまたまワタクシが某旅行雑誌に書いたコラムの次のページにハトヤの「近未来な昭和レトロで大人気!」みたいな記事が載っていて、えええ? 今、ハトヤってそーなってるの?って。これは行かなくっちゃ!と。
※ Z世代……1990年代後半から2000年代に生まれたデジタルネイティブ世代
エモい。そしてネオンサインが!
で、行ってみたら、ハトヤはなにもかもが昭和レトロでエモかった!
昭和レトロといってもハトヤの場合はホテルですからね、よくある駄菓子屋系のレトロではなく、レトロモダン。そこが実にいいのだ。なんでも、きゃりーぱみゅぱみゅがCDアルバムのビジュアルを、ここハトヤで撮影したことが再ブレイクのきっかけになったのだとか。そーだったんだー、オジサン、そんなことちっとも知りませんでした……。
シャンデリア、螺旋(らせん)階段、古めかしいフォントが素晴らしい看板等々、エモいものがいっぱいあって、確かにZ世代の女子たちがスマホで写真を撮りまくっていましたよ。中でも間違いなくいちばんのエモスポットといえる渡り廊下なんかは、〝レトロ近未来宇宙船空間〞って感じで、これは映(ば)えるわぁー。でも、ワタクシのような、かつてロックに洗脳された昭和オジにとっては、このサイケデリックな空間はまさに70年代の熱いロックの季節を思い出させてくれて、Z世代の女子とは別の意味でエモかった!

見よ!ここがハトヤのキングオブ・エモスポットだ!レトロ近未来な宇宙船のようでもあり、熱いロックの季節を思い出させるサイケワールドでもあり、みんなココで写真を撮りたくてやって来る
さて、そんなハトヤの温泉はどーだったかっていうと、大満足でした。ワタクシ的には大型の観光ホテルっていうと、循環&塩素消毒でしょ?ってイメージしか持ってないんだけど、そこはさすが国内有数の豊富な源泉湧出量を誇る伊東温泉。しっかり源泉かけ流しで、大浴場も鮮度のいい湯で満たされていて、昭和レトロにどっぷり浸れて、いい湯にもつかれて、もー、いうことなしでした。
そんなハトヤでのひとときも、やがて日が暮れてくる。ワタクシが泊まった部屋からは、屋上のハトヤの文字の大きなネオンサインが見えたりしたんだけど、それが宵闇に包まれて、燦然(さんぜん)と輝き始め……いや、輝かないんだなぁ、これが。というのも、ネオンサインの一部分が点灯せず、歯抜け文字みたいな感じになっている。おお、これが噂のアレかぁ。と、ちょっと感動するワタクシ……。

これぞハトヤの矜持(きょうじ)!歯抜け文字状態のハトヤのネオンサイン。これは個人的にシビれました
というのはですねぇ、なんの番組かは覚えていないのだけど、たまたまテレビで見たんですよ。ハトヤがネオン管の味わい深い光にこだわっているとのことで、安易にLED照明なんかには替えないで、古いネオン管を修理して使っているというようなことを。だから歯抜け文字みたいになっていることもある、と。
これぞ本物レトロの矜持だと言いたい!うわべだけマネた、なんちゃって昭和レトロが横行しているなか、ハトヤは違う。本物なのだ。窓から見える、歯抜け文字のハトヤのネオンサインは実にカッコよく夜空に輝いていた。ワタクシにはコレがいちばんエモかった。ああ、来てよかったなぁ、ハトヤ。
ところで藤岡弘、さんの「、」ってちゃんと意味があるんですってね。それもなんとも藤岡イズムな意味が。それは昔の武将は「周囲に流されず、一度立ち止まって自分を見つめる」覚悟があったことと「我未だ完成ぜず」の意味を込めて、芸名の最後に「、」を打ったとのこと。なるほどー。らしいなぁ。
でも、それならばハトヤホテルだって、まさに「周囲に流されず自分を見つめて」いるんじゃないだろうか。ネオンサインなんかまさにその意志に貫かれているわけで、いっそのことハトヤも、その名に「、」を打って「ハトヤホテル、」にしちゃってもいいかもしれない。
文・写真/岩本 薫
♨今月のひなびた温泉
ハトヤホテル (伊東温泉・静岡)
◎料金:1泊2食1万1000円〜(2人より。プラン多数あり)/日帰り入浴不可
◎泉質:アルカリ性単純温泉
◎アクセス:伊東線伊東駅から送迎バス5分(要予約)/小田原厚木道路石橋ICから41キロ、または東名高速沼津ICから50キロ
◎住所:静岡県伊東市岡1391
◎TEL:0557-37-4126
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2025年12月号)
(Web掲載:2026年2月1日)


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