【クラフト蒸留所を巡る旅】八郷蒸溜所
シングルモルト、ブレンデッドそれぞれに茨城の風土を感じられる味を目指している
日本酒、ビールの知見を生かし、筑波山の麓で新境地を開拓
盆地の先に筑波山の稜線が続いている。のどかな里山の風景を眺めながらの試飲で勧められたのは、「日の丸ウイスキー シングルカスク ワインカスクフィニッシュ№W-4010」だ。舌に流した瞬間、力強いアルコール感とともに口の中に広がったフルーティーな香りに味覚と嗅覚が揺さぶられた。視覚までも刺激を受けたのか、春まだ浅い常陸野(ひたちの)の景色が一気に春めいて見えた。
1823年創業の木内酒造が2016年にウイスキー事業に参入し、20年に開設したのがこの八郷蒸溜所。22年に「日の丸ウイスキー」をリリースした。「日の丸」の名には、「ジャパニーズウイスキーの新たな世界を拓(ひら)く」という決意が込められているという。

建物はかつての公民館をリノベーションして使用

ポットスチルはネックが細く、アームはやや下向き。原料の風味を残した重めのウイスキーを蒸溜する
見学ツアーに参加すると、その心意気を後押しする個性的な設備や製造方法がよく分かる。例えば麦芽を砕く破砕(はさい)の過程では、麦芽の外側の殻を適度に砕き用いることにより、麦の香りを生かし、濾過(ろか)の際にフィルターの役目を担わせている。通常は一体となっていることが多い糖化槽と濾過(ろか)槽を別々にしているのは、木内酒造が1996年から取り組んでいるビール製造で培った技術に由来しているという。日本酒の蔵元でもあるため、酒米をウイスキーに使うこともある。
そしてウイスキーの味を仕上げる熟成。ここではバーボン、シェリー、赤ワインの3種を中心に複数の樽を使う。樽は輸入品だが、「鏡板」と呼ばれる円型の部分を桜材に変更した「桜樽」も使用している。ほんのりとした桜の香りが柔らかな風味を加えるという。

貯蔵樽の違いによりウイスキーの色が異なることを解説するコーナーも興味深い
そんな説明を聞き、熟成樽に興味を抱いた後に味わったのが、冒頭のワインカスクフィニッシュだ。酒の世界に壁はなく、ウイスキーにもワイン、ビール、日本酒のファクターが絡んでいる。ウイスキーは奥深い。筑波山系の良質の水がウイスキー造りを支えていることも書き加えておこう。麦栽培にも取り組み、「オール茨城」によるウイスキーも醸造している。次はどんなウイスキーがリリースされるか楽しみだ。
八郷蒸溜所では毎週日曜にブレンド体験(要予約、1万円)も開催。見学ツアーに参加しなくてもポットスチルなどは無料で見られる。ビジターセンターでは、麦芽粕を飼料にした銘柄豚のソーセージやハムも味わえる。

ハムの盛り合わせ(1100円)は天然酵母のパン付き

ビジターセンターのテイスティングコーナー
この逸品 日の丸ウイスキー シングルカスク
ワインカスクフィニッシュ№W-4010
バーボン樽などで熟成させた原酒をワイン樽で仕上げた。赤ワイン由来の華やかなフルーツ香とかすかな酸味が特徴。甘みとボディー感のバランスも良い。700ミリリットル8800円。八郷蒸溜所のみで販売する限定商品。

見学ツアー
10時45分~、14時25分~(土・日曜、祝日は12時30分~もあり。要予約)/火曜休/2000円/常磐線石岡駅からバス28分、八郷蒸溜所下車すぐ(土・日曜、祝日のみ運行、平日はタクシー20分)/石岡市須釜1300/TEL:0299-56-4411
👟立ち寄りスポット
やさと温泉 ゆりの郷
八郷蒸溜所から西へ約2キロにある日帰り温泉施設。露天風呂は広々として開放的。温泉は地下1300メートルから湧く単純弱放射能泉。サウナもある。JAが運営する食事処、農畜産物の販売所も併設。イチゴ狩りができる果樹園が隣接している。
■10時~21時30分/月曜(祝日の場合は翌日)休/950円(土・日曜、祝日は1160円)/常磐線石岡駅からバス35分、やさと温泉ゆりの郷下車すぐ(土・日曜、祝日のみ運行、平日はタクシー25分)/石岡市小幡1416/TEL:0299-42-4126

田園風景を見渡す露天風呂

蒸溜所見学後の食事や土産選びに立ち寄ってもいい
文/渡辺貴由
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2026年5月号)
(Web掲載:2026年4月7日)
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