スコットランドウイスキー紀行㊤
赤と白を基調にしたベンローマック蒸留所。広い敷地内は緑が溢れ、バラが咲き誇る
大自然が育む″命の水″を求めて
ウイスキーは、古代ゲール語で「命の水」を表すという。中でもスコッチウイスキーは、英国北部のスコットランドの風土が生んだ宝物だ。英国では自然への回帰を志向する旅が見直されており、スコットランドはその代表的な土地。豊かな自然と職人技が生み出すスコッチウイスキーの魅力に触れようと、蒸留所が多く集まるハイランド地方・スペイサイドを訪ねてみた。
スペイサイドは天然の良質な軟水に恵まれた大麦の産地。玄関口のインヴァネス空港からスコットレイルで二つ目、フォレス駅で降りると、プラットフォームの向こうに赤い煙突が見えた。最初に訪れるベンローマック蒸留所の目印だ。1898年に創業し、4代目となる小規模の家族経営ながら、品質のよいシングルモルトに定評があり、皇太子時代のチャールズ国王が公式行事で訪問したこともある。
「ウイスキーを造るものは四つ。麦、水、酵母、そして人」と手造りの伝統的なスペイサイド・シングルモルトにこだわってきた。シングルモルト・スコッチウイスキーとは、「大麦麦芽のみを使い、スコットランド内の単一蒸留所で最低3年、700リットル以下のオーク樽で熟成されたもの」と規定される。
この蒸留所では、4人の職人が24時間体制で工程を徹底管理する。糖化、発酵、蒸留と、原酒のもとを常にベストの状態に保ち、守り育てる。発酵には2種の酵母を使い、より複雑な味わいを生み出す。蒸留器は蒸留所によって形状が異なりそれぞれの個性につながる。案内役のスーザン・コルヴィルさんは「どっしりした形の蒸留器はよりリッチな味わいになります」と話してくれた。
8棟ある熟成庫には4000樽が寝かされている。火災などによる焼失を防ぐため、年代ごとに各棟に振り分けて保管しているという。ひんやりした空気が心地よい庫内は通年で8〜10度に保たれ、豊かで甘い香りが漂う。
最後に、シングルモルト・スコッチウイスキーを試飲した。5種を飲んだが、いずれもふくよかな香りと口当たりで、職人の手で丁寧に造られたものだということがよく分かった。特に気に入ったのが、「ベンローマック15年」。まるで貴婦人に微笑みかけられているような気品を感じさせた。次回は同じスペイサイドにるほかの蒸留所を巡り、さらにスコッチウイスキーの魅力を探ってみよう。
文・写真/南崎智子
スコットランドウイスキー紀行㊦ へ続く
[Benromach Distillery]
Invererne Road, Forres,Moray IV36 3EB
インヴァネス駅から三つ目のフォレス駅下車徒歩約7分。ガイド付き見学ツアーは1人25ポンド(所要時間1時間半)。夏季(3〜9月)9時30分〜17時、冬季(10〜2月)10時〜16時。
スコットランドの蒸留所
スコットランド全土で130以上ある蒸留所は、五つの生産地域に分かれ、それぞれに味の特色を持つ。スペイサイドには約半数に近い約60軒の蒸留所が集まる。
【スペイサイド】芳醇でまろやか。フルーティーでキャラメル風味の甘さ
【ハイランド(&アイランド)】フルーティーな甘さだがスパイシー。麦芽の味が強い
【アイラ】ラガブーリンやラフロイグなど九つの蒸留所がある。ピート(泥炭)を多用したスモーキーな味わい
【キャンベルタウン】ニッカウヰスキーの創始者・竹鶴政孝が実習した地で、余市蒸留所と似た風景といわれる。フルーティーな甘さといぶしたようなピート臭がある
【ローランド】軽くて甘い、花のような柑橘系の香り
旅のインフォメーション
交通/ 羽田からロンドンまで直行便で約12時間、ロンドンからインヴァネスまで約1時間30分
時差/ 日本より8時間遅れ(冬時間は9時間)
ビザ/ 観光目的の場合、6か月までの滞在は不要
通貨/ ポンド(£)。1ポンド=186円(2023年8月17日現在)
気候/ インヴァネスの年間平均気温は夏季約18℃、冬季約8℃
問い合わせ/ Visit Scotland(スコットランド観光局)
※掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2023年10月号)
(Web掲載:2023年10月18日)