【私の初めてのひとり旅】眞鍋かをりさん パリ(1)
まなべ・かをり [タレント]
1980年、愛媛県西条市出身。横浜国立大学卒業。大学在学中からタレント活動を始め、テレビや雑誌などで活躍。ブログでも人気を集め、「ブログの女王」と称される。30 歳から海外へのひとり旅に出るようになり、これまで20か国以上を訪れた。著書に『世界をひとりで歩いてみた』(祥伝社)など。
「知らない土地で、何もかも自分で決めて、自分で行動してみたかった」
日本にiPhone 3G(アイフォーン・スリージー)が上陸し、世間に広まり始めたころ、私のひとり旅は幕を開けた。19歳で芸能界に飛び込んでから仕事しかしていなかった私は、自由に飢えていた。そもそも出身がアイドルだったものだから、自分のことを自分で決めるなんて、ままならない世界。住む場所や髪型、休日の予定さえも、大人たちの顔色を気にしながら生きてきた。そんな生活が10年以上続いた29歳の冬、忙しさとストレスで心身の限界を感じた私は、「このまま30代になるのはやばいぞ」と思いたち、仕事をいったん全て整理して、未来をまっさらにしたのだった。
さあこれから自由です、何をしてもいいですよという状態になって、最初に思いついたのが、パリへのひとり旅だった。何も知らない土地で、何もかも自分で決めて、自分で行動してみたかった。それまでは、新幹線のチケットすら持たせてもらえなかった(すぐ失くしてしまうので仕方ないのだが)。その反動から、自分で糸をブチッとちぎって、糸の切れた凧になってみたかったのかもしれない。女30にして旅に目覚めた瞬間だった。
Instagram(インスタグラム)なんてまだなかったし、旅情報も今みたいには溢れていなかった時代に、旅慣れていなかった私の心強い味方になってくれたのが、相棒のiPhone 3G だった。その当時は地図機能と検索くらいしか旅に役立つ機能はなかったけれど、知らない場所を探検するにはそれで十分だった。
シャルル・ド・ゴール空港からバスとタクシーを乗り継いでなんとかたどり着いたプチホテルで、Google(グーグル)マップを使って周辺の地理を探った。最寄りの駅さえわかれば、とりあえず迷子になることはない。すると、現在地から徒歩10分ほどのところに、円形の広場があるのに気がついた。中心には「Arc de triomphe(アルク・ドゥ・トリオーンフ)」と書いてある。日本語に訳すと、あの有名な凱旋門のことらしい。
まだ夜明け前の薄暗いパリの街へ出て、凱旋門へと歩き出す。立ち並ぶ道沿いの店はまだどこも開いていないのに、世界がぜんぶ輝いて見える気がする。いかにもパリというフォルムのおしゃれな街灯や石畳、早朝にゴミを回収する鮮やかなグリーンのゴミ収集車さえも、全てが私には目新しかった。
文・写真/眞鍋かをり
(出典:「旅行読売」2023年7月号)
(Web掲載:2023年6月23日)