【私の初めてのひとり旅】眞鍋かをりさん パリ(2)
アメリカにひとり旅した時に申し込んだ「グランドキャニオン」ツアーで。フットワークの軽さはひとり旅ならでは
「異国の地で初めてパンを買えたときめき」
もう少しで凱旋門が見えてくるかな、というあたりで、一軒すでに灯(あか)りがついているパン屋さんが目に入った。吸い寄せられるように店内をうかがうと、ショーウィンドウにずらりと並ぶおいしそうなパンの数々。パリで買い物をするなんて初めての経験だったけれど、キラキラモードの私はただ「本場のクロワッサンが食べられる!」という考えで頭がいっぱいになり、テレビでもなかなか出したことのないビッグスマイルで「ボンジュール!」と飛び込んだのだった。
「ください」はフランス語で「シルブプレ」、「ふたつ」は「アン・ドゥ・トロワ」の「ドゥ」
だから…「ドゥ・クロワッサン・シルブプレ!」
独特の鼻にかかったようなフランス語の発音をまねして「クロワッサン」を「クゴォアッサン」と言ってみた。それが上手(うま)くできたかどうかはわからない。が、パン屋のおばさまは「Oui(ウィ)! 」と笑ってクロワッサンをふたつ渡してくれたから、きっとうまくいったのだろう。
店を出た後に見た凱旋門は凛々(りり)しく美しく、とても心に響いたけれど、異国の地で初めてパンを買えた高揚感によるときめきのほうが、私にとっては大きかった。
パリを手始めにヨーロッパやアメリカ、アジアなど色々な国をひとり旅してきたが、このときと同じ「初めてできた!」という気持ちを味わうためだったような気がする。きっぷの買い方に悩んだトルコの地下鉄や、注文の仕方が難しいギリシャのファストフード店など、初めてのことやわからないことは何だって楽しい。
旅の相棒だったiPhone 3Gは、現在はiPhone 12になり(それでも古いのだが)、進化した機能やサービスのおかげで、旅先の困りごとも今やだいたい解決できてしまう。ツアーガイドのようで頼もしいが、旅のドキドキが減ったのはちょっと寂しい。相棒が進化するたびに、私の旅もできることがどんどん増えていくのだろう。これから先もたくさんの「初めて」に出会うため、相棒とともに旅をしていきたいと思う。
文・写真/眞鍋かをり
(出典:「旅行読売」2023年7月号)
(Web掲載:2023年6月23日)