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スコットランドウイスキー紀行㊦

場所
スコットランドウイスキー紀行㊦

グレンマレイ蒸留所で熟成に使う樽の見本。仕上がったウイスキーは上に置かれた瓶のような色になる。見学者は香りも体験できる

 

風と土と水が生む“火の酒”を巡る旅

スコットランドウイスキー紀行㊤ から続く

アルコール分が高いウイスキーなどの蒸留酒は「火の酒」とも呼ばれる。前回に続いて英国北部スコットランドのハイランド地方・スペイサイドの蒸留所を巡り、スコッチウイスキーの魅力を探った。

スコットレイルのエルギン駅からタクシーで5分のグレンマレイ蒸留所は創業1897年。くすんだ石造りの建物や屋外に積まれた樽が、昔気質の蒸留所の雰囲気を醸し出す。「夏は暑すぎず、冬は寒すぎず、湿度もちょうどいい。ハイランドの気候がウイスキー造りに向いている」と語るのは、同社ウイスキー・アンバサダーのイアン・アランさんだ。

スコッチウイスキーの熟成には新樽以外にも、シェリー、ワイン、ブランデーなど以前はほかの酒造りに使われていた樽も用いられる。樽の種類によって風味や色が違ってくるが、グレンマレイでは主にブランデー樽を使い、甘くて柔らかい味わいになるのが特徴だ。1棟あたり約800樽が眠る熟成庫には小さな窓が少しだけ。薄暗い静けさの中、ウイスキーの寝息が聞こえるようだった。

ショップとカフェを併設したグレンマレイ蒸留所のビジターセンター。手作りスコーンやスコットランド料理を味わえる

グレンマレイから南下し、山の中に入っていくと、ウイスキーの原料となる麦のほか、銅製の蒸留器や発酵用の木桶の生産地でもあるロセス村に着く。この村にあるグレングラント蒸留所は1840年の創業。地元の名士だった創業者がこだわったのは、薄い金色に輝くウイスキーだ。

蒸留所の庭園は東京ドーム二つ分の広さ。リンゴの木々の間を抜けていくと、小川の水源にたどり着いた。小さな滝だが、ごうごうと音を立てて流れる様は力強い。この水はスペイ川へと合流し、ほかの蒸留所のウイスキー造りにも使われている。

庭園の奥から湧き出る水源の滝

細長い形の蒸留器には先端に浄化装置が取り付けられている。今では珍しい形状だが、新鮮な麦芽の風味を残しつつより軽くクリアな味わいと美しい金色に仕上がるという。ウイスキーは熟成時に樽を通って一部が揮発する。樽詰めした時よりも量は減るが、これを「天使の分け前」と呼び、「天使にお裾分けすることでよりおいしくしてもらう」と考えるそうだ。

高くてスリムな蒸留器の先端に浄化装置が。銅製なのは熱伝導の良さから。下部にはかつて石炭をくべた炉も残る
グレングラント蒸留所のスタッフのカースティーさん

スペイサイド最古のストラスアイラ蒸留所にも立ち寄った。仏塔を思わせる尖った屋根を持つ建物は、麦芽を乾燥させるために使われていた。泥炭をいぶして香り付けしながら乾かしていたが、その際の空気循環に適した形だったという。

創業1786年、スペイサイド最古の蒸留所ストラスアイラ。ブレンデッドウイスキー「シーバスリーガル」のモルト原酒を製造している

火の酒・スコッチウイスキーがスコットランドの自然や伝統の賜物であることを知り、温かい人情にも触れられた旅だった。

文・写真/南崎智子

グレンマレイ蒸留所
[Glen Moray Distillery]
Bruceland Road, Elgin, Moray,IV30 1YE

グレングラント蒸留所
[ Glen Grant Distillery]
Rothes. Aberlour,AB38 7BS


【スペイサイドの玄関口インヴァネス】

ハイランド地方の中心都市とされるインヴァネスは、スペイサイド巡りの拠点。ネス湖から流れ出るネス川の河畔を中心に、おしゃれな店やクラフトウイスキーの蒸留所などが立ち並ぶ。気軽に立ち寄れるパブにはウイスキーだけで1冊のメニューがあり、ウイスキーを使った料理やケルト音楽の生演奏も楽しめる。空港搭乗口でも各蒸留所のミニボトルが5ポンド程度で販売されている。

インヴァネスからバスで30分、ネス湖畔には13世 紀のアーカート城が残る。湖は全長35キロ、幅2キロ と細長い。最近も伝説の生物「ネッシー」の捜索 が話題になったばかり。

旅のインフォメーション

交通/ 羽田からロンドンまで直行便で約12時間、ロンドンからインヴァネスまで直行便で約1時間30分
時差/ 日本より8時間遅れ(冬時間は9時間)
ビザ/ 観光目的の場合、6か月までの滞在は不要
通貨/ ポンド(£)。1ポンド=184円(2023年9月13日現在)
気候/ インヴァネスの年間平均気温は夏季約18℃、冬季約8℃
問い合わせ/ Visit Scotland(スコットランド観光局) 

※掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2023年11月号)
(Web掲載:2023年10月27日)


Writer

南崎智子 さん

百貨店宣伝部や広告代理店で勤務後に渡英し、ロンドン在住20年超。英国関連雑誌の現地代表や在英邦人向け医療雑誌の編集長などの傍ら、日本の新聞や雑誌に寄稿。イーストエンドのパブをこよなく愛し、ひとり女酒場放浪記を気取る日々。著書に『ディープなロンドン』『ロンドン英国王室御用達案内』『ブリティッシュパブへ行こう』など。

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