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思い出のスイス・インターラーケン

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思い出のスイス・インターラーケン

インターラーケン市内からユングフラウ山を望む。インターラーケンは、ベルン州南東部に位置し、トゥーン湖とブリエンツ湖に挟まれた場所にある。地名は、「湖の間」に由来する

鉄道の要衝にして風光絶佳 宮脇俊三氏との思い出も

コロナ禍が収束し、再び自由に世界を旅することが可能になったら、真っ先に行きたい国は鉄道王国スイス、街ならそのほぼ中央に位置するインターラーケンである。

初めてインターラーケンを訪れたのは29年前の1992年10月15日のこと。鉄道紀行作家の大先輩、宮脇俊三先生の「スイス山岳鉄道」の取材のお供でチューリッヒに飛び、ルツェルンよりSBB(注1)ブリューニック線(現在のZb 注2)に乗ってインターラーケン・オスト(東)駅に到着した。ホテルは忘れもしないボー・リヴァージュ。アルプス山脈を仰ぐ客室で、地図と時刻表を広げ、翌日の乗車ルートについて作戦を練ったことも懐かしい。

 

インターラーケン・オスト駅の外観

先生が宿をインターラーケンにとった理由がこのとき初めて分かった。「明日はSPB(注3)に乗るつもりですが、もしも天候が悪くユングフラウ(山)が見えなければ、BLS(注4)でシュピーツに出て、まだ乗ったことのないMOB(注5)に乗ってみようかと思っています」。つまり、インターラーケンは鉄道の交差点で、東西南北どちらの方向でも自由に行くことが可能な場所なのだ。

インターラーケン・オスト駅に到着するドイツ発の国際列車ICE(インターシティエクスプレス、左側)と、発車するスイス国鉄の列車

その旅以来、何度インターラーケンを訪れたことだろう。スイスへの渡航回数は30回を超えているが、インターラーケン滞在も20回は下らないほどである。

実際、スイスの鉄道はとても利用しやすい。路線の密度が高いのでスイス国内のほとんどの場所に鉄道でアプローチできる。多くの列車は自由席なので、窓口に並んで指定席を取る必要もなければ、改札もない。切符はもちろん必要だが、外国人向けの「スイスパス」さえあれば、その日の天気や気分次第で東西南北どちらに行こうと自由自在。その点でもスイスのほぼ中央に位置するインターラーケンは便利なのである。

さて、20回は訪れているであろうインターラーケンで、最も思い出深い旅は、2014年5月の「ホドラーの旅」だ。この年、日本とスイスの国交樹立150周年を記念して国立西洋美術館と兵庫県立美術館で、「フェルディナント・ホドラー展」が開催された。フェルディナント・ホドラー(以下、ホドラー)とは、スイスの国民的画家だが、うれしいことに、ホドラーの足跡をたどる撮影取材を依頼され、その目的地の一つがインターラーケンであった。

1992年に宮脇さんと宿泊した、思い出のホテル「ボー・リヴァージュ」

フェルディナント・ホドラーと同じ風景を見る

ホドラー作品「インターラーケンの朝」を、ベルン美術館で観た瞬間、私は声にならない声をあげた。デジャブ? どこかでこの風景をすでに見ているような気がしたからだ。ベルン発のBLSが間もなく終着のインターラーケン・オスト駅に到着するその時、私は「あ!」と、声をあげた。ホドラーの絵と同じ風景が現れたからだ。それは宮脇先生と泊まったボー・リヴァージュの散歩道から眺めた風景であった。1875年の作品なので100年以上も前の風景が、ほとんど変わっていないことも驚きである。

「フェルディナント・ホドラー展」のポスターにもなった作品が、「ミューレンから見たユングフラウ山」である。ユングフラウ山は標高4158㍍、ベルナー・アルプスの最高峰で、インターラーケンから仰ぐことができる。しかも標高3454㍍のユングフラウヨッホ駅まで登山鉄道が走っているので、インターラーケンからおよそ2時間で富士山の9合目に匹敵する高所に立つことができるのだ。けれども、ユングフラウヨッホからユングフラウの山頂は判然としない。近すぎるからである。

ホドラー作品と同じアングルで撮影したユングフラウ山

果たして、ホドラーが描いたミューレンからの眺めはいかに。1911年の作品だが、ミューレン鉄道の開業は1891年のこと。ホドラーが登山電車に乗ってミューレンに向かったことは間違いない。そこで私もインターラーケンからBOB(注6)、BLM(注7)を乗り継いでミューレンへ。

駅から100㍍ほどの展望テラスで私の足は止まった。ホドラーが描いた作品と同じアングルのユングフラウ山がそこにあった。しかも、ホドラー作品の特徴である雲が湧いていた。その時、そこにホドラーがいるような気がしてならなかった。

注1:スイス国鉄      注2:スイス中央鉄道 注3:シーニゲプラッテ鉄道 注4:レッチュベルク鉄道 注5:モントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道 注6:ベルナー・オーバーラント鉄道   注7:ミューレン鉄道

【旅のインフォメーション】

交通/成田空港からチューリッヒ空港へは直行便で約12時間。チューリッヒ中央駅からインターラーケン・オスト駅までは、IC(インターシティ)で約2時間

時差/日本より8時間遅れ(サマータイム期間は7時間遅れ)

言語/ドイツ語、フランス語、イタリア語など(英語も通じる)

ビザ/観光目的の場合、滞在が90日以内なら不要

通貨/スイスフラン。1スイスフラン=約119円(9月15日現在)

現地情報インターラーケン|スイス政府観光局


(旅行読売2021年11月号掲載)

(WEB掲載:2022年1月1日)



Writer

櫻井寛 さん

1954年、長野県生まれ。フォトジャーナリスト。東京交通短期大学客員教授。著書に「世界鉄道切手夢紀行」(日本郵趣出版)、「列車で行こう! JR全路線図鑑」(世界文化社)など

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