【英国王室御用達】いま改めて注目「女王陛下」のお気に入り(1)
20万冊の書籍がそろうハッチャーズの店内
「英国王室御用達」に触れる
2022年は英王室が世界中の注目を集めたが、「王室御用達」なるものをご存じだろうか。ロンドン観光で体験できる、その奥深い世界を紹介する。
【英国王室御用達とは?】
君主と君主の定める王室メンバーが実際に使い続け、それぞれがその品質を認めたものに対して与える「お墨付き」のこと。現在800以上の御用達があるが、その対象は職人個人や老舗ブランドから、スーパーで買える日用品やサービスまで多岐にわたる。基本的に5年ごとに更新される。王室から御用達の認定を受けた店は、その王室メンバーの紋章をかたどった看板を作製して店頭や店内に掲げている。
2022年9月、エリザベス2世が96年の生涯を閉じ、英国は深い悲しみに包まれた。在位70周年記念の「プラチナ・ジュビリー」から3か月後のことだった。その死を悼み、世界史上2位という永年の治世をたたえるため、国内外から多くの人々がロンドンを訪れた。その中心部に位置する、ピカデリーサーカス駅からバッキンガム宮殿への通りには、「王室御用達」の看板を掲げる老舗が軒を連ねる。
起源は中世まで遡るとされる英王室御用達だが、エリザベス女王の死去に伴い、各店は2年間にわたる再審査を経て新しい御用達認定を受けることになる。つまり、世界中から愛され、敬われたエリザベス女王のお気に入りの品々は、もうしばらくの間は、市民や観光客も手に入れることができるわけだ。
現時点ではエリザベス女王、フィリップ殿下(いずれも故人)、チャールズ皇太子(現チャールズ3世国王)の三つの御用達認定があるが、この3冠すべてを持つ店は少ない。その一つが、ロンドン最古の書店「ハッチャーズ」だ。創業1797年、かつて詩人のオスカー・ワイルドやバイロン卿も足しげく通い、ピーターラビットの絵本を初めて置いた店としても知られる。ピカデリーサーカス駅から徒歩3分、ピカデリーの大通りに面し、老舗食料品「フォートナム&メイソン」の隣にある。全5フロアに、絵本から各種専門書まで8万タイトル20万冊がそろう。王室関連本に加え、007シリーズの初版本や限定サイン本など希少本も取り扱っている。
知識豊富なスタッフがあらゆる問い合わせに応じてくれる店には、開店と同時に多くの客が訪れる。一般客と同じように、王室メンバーも店に全幅の信頼を寄せ、宮殿で読む本を注文し、配達を待つのだ。店長のフランシス・クレバードンさんは「王室関連本は特に充実させており、女王関連の本は各階に陳列している。すべての御用達タイトルを同時に持つ店はまれ。素晴らしいことだと思う」と誇らしげに語る。
日本人客も多いという同店だが、気になる英国の新型コロナウイルス事情はどうだろう。英国政府はコロナと共存する姿勢を表明し、22年2月には法的規制を撤廃。すでに入国時の制限も、マスク着用の義務もない。ロンドン市街は主に欧米からの観光客であふれ、以前のにぎわいを取り戻したかのように見えるが、それでも22年12月1日時点の英国内の新規感染者数は1日2万人超。まだ安心できる状況ではないとはいえ、近い将来のロンドン観光に向け、次号も王室御用達の歴史と伝統に触れてみたい。
文・写真/南崎智子
【SHOP DATA】
住所:187 Piccadilly, London W1J 9LE
TEL+44-20-7439-9921
営業:月曜〜土曜は9時30分〜20時、日曜は12時〜18時30分(※掲載時のデータ)
【旅のインフォメーション】
交通:羽田からロンドンまで直行便で約12時間
時差:日本より8時間遅れ(冬時間は9時間)
ビザ:観光目的の場合、6か月までの滞在は不要
通貨: ポンド(£)。1ポンド=約167円(2022年12月14日現在)
気候: ロンドンの気温は東京とさほど変わらない。ただ日本より湿度が低く、春や秋はより肌寒く感じる
問い合わせ:英国政府観光庁
(出典:「旅行読売」2023年2月号)
(Web掲載:2023年4月10日)