【にっぽんクラフト蒸溜所紀行】羽生蒸溜所 HANYU DISTILLERY <埼玉・羽生市>
1980年当時のポットスチルの設計図をもとに作られた蒸留器
ウイスキー作りへの思いが実現させた蒸留所の復活
夏は暑く、冬は赤城おろしと呼ばれる冷たい風が利根川沿いの平野を吹き渡る羽生(はにゅう)。昨年、この地で育まれたウイスキー「羽生ジェネシス」がリリースされた。生み出したのは、2021年に同地でウイスキー蒸留を再開した羽生蒸溜所。限定販売された商品は「東亜のウイスキーが復活した」という声に迎えられ、わずか2週間で完売したという。東亜とは、蒸留所を運営する東亜酒造のことだ。
終戦翌年の1946年、いち早くウイスキー製造免許を取得した東亜酒造は、江戸初期に秩父で創業した老舗酒蔵。現在地に移転した後も、日本酒造りと共にスコットランドから輸入したウイスキーをブレンドする洋酒作りを続けていた。1980年にはポットスチルを導入し、自社での原酒づくりをスタート。その原酒を使ったウイスキーが発売されるやその風味が評判となり、「地ウイスキーの東の雄」と称されるほどの人気を博した。
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蒸留所は広大な東亜酒造の一角にある

見学コースから見た貯蔵室。空調のない環境で熟成させている
「ですがその後、焼酎ブームを背景に需要が低迷。2000年には蒸留を停止しました」
同社営業本部の大川周良さんが、その後の物語を教えてくださる。停止から4年後、兵庫の醸造グループ傘下となり経営基盤を安定させた同社は、満を持して蒸留所の再稼働を試みる。
「いつかまたウイスキーを作りたいという思いが、ずっとありました。今ならゴールデンホースの原酒作りやブレンドを行なっていた社員が在籍している。そこでまずは〝ゴールデンホース〟の銘柄を復活させました」
2016年に「ゴールデンホース武蔵」「ゴールデンホース武州」をリリース。同時に蒸留所自体の復活も目指した。探してみると、当時のポットスチルの設計図が見つかった。これをもとに新たな蒸留器を製造。2021年、竣工したばかりの蒸留所に納められ、原酒作りが再開された。同時に貯蔵前のニューポットを返礼品とするクラウドファンディングをスタートさせたと、大川さん。
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保管されていたかつてのポットスチルの設計図。これを元に作られたのが冒頭の写真の蒸留器
戦後のウイスキーブームを支え26年を経て復活した人気銘柄〝ゴールデンホース〟の進化

「まずは東亜のウイスキーが復活したことを知って欲しい、という思いで実施した記念プロジェクトだったんですが、わずか3ヶ月で1426人のサポーターと2600万円以上の応援をいただきました。その多くが、かつてゴールデンホースを愛飲してくださっていた方々。本当に、ありがたかったです」
その資金を活用し、試飲や見学ができるビジターセンターを開設。見学ツアーにはこの1年間で2000人が訪れたという。
蒸留所に併設されたビジターセンターの見学路には同社のウイスキーが陳列されているほか、その先には原料、蒸留・熟成までの工程も掲示。ガラス窓越しに見学できる。
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2025年に新設されたビジターセンター

見学コースには製造工程や歴代の商品が展示されている
原料となるモルトはスコットランド産のピートとノンビートの2種類、仕込み水は赤城山系の伏流水だ。一般的にはこれにウイスキー酵母を合わせて発酵させるが、日本酒蔵らしく、まず少量の麦汁で酵母を増やした〝酒母〟を作り、これを麦汁と共に糖化槽に入れ、もろみを作る。
できたばかりのニューポットをいただくと、ほのかに甘く、熟成前なのにまろやかで飲みやすい事に驚いた。
「これから育てていきます。目指すのは〝羽生らしい〟と言われる味」
ビジターセンターにはテイスティングルームも備わっており、見学者はここでノンピートのシングルモルト3年貯蔵をはじめ、数種類のテイスティングを体験できる。
ウイスキーにかける思いを原動力に復活した銘酒は、ここからさらに時間をかけ、ゆっくりと育てられてゆく。
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見学者の試飲はシングルモルト3年など、数種類の試飲が可能
3年熟成の同社産シングルモルトに複数のスコットランド産モルトウイスキーをブレンドした新銘柄「TONE(トーン)羽生ワールドモルトウイスキー」。ピートのスモーキーさが加わったまろやかな味わい
文/奥 紀栄

羽生蒸溜所 HANYU DISTILLERY
住所:埼玉県羽生市西4-1-11
TEL:080-7373-2343
営業:9:30〜16:00(火・水曜休)
交通:東武伊勢崎線羽生駅から徒歩5分東北自動車道羽生ICから約15分
■見学について
完全予約制で見学ツアーを実施。ポットスチルや糖化槽、発酵槽、貯蔵庫などの設備が見られるほか、ゲストルームでは数種類のウイスキーのテイスティングが可能。1名から受付、見学料1名1,500円(税込)。
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※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2026年6月号)
(Web掲載:2026年4月28日)


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