【フェリーひとり(一人)旅】コラム はじめてのフェリーひとり旅(イラストレーター/吉澤慶子)
※一部社名が変更になっています

よしざわ・けいこ
埼玉県在住。兼業イラストレーター。船に乗ることを目的とした長距離フェリーのひとり旅を10年続け、船のイラストを手がけている。TBS系列のテレビ番組「マツコの知らない世界」の国内フェリーの回に出演。
350回以上のフェリー乗船歴がある吉澤慶子さんに、フェリーの魅力や乗船時の注意点を教えていただきました。
私のフェリーひとり旅
私が初めて決行したひとり旅は、大阪から北九州へ行く阪九フェリー「いずみ」の旅だった。かれこれ10年ほど前になる。20代のうちにひとりで遠くへ行ってみたい、どうせなら未知の乗り物だったフェリーに乗り、海の近くで船をたくさん見てみたいと思ったのが最初だ。
初めての船旅は目に映る全てが非日常で、新鮮でうれしくて楽しくて、夜通し船内を見て回った。転げ落ちるようにそのまま船旅にハマり、観光や現地のグルメではなく、フェリーに乗ること自体を目的に旅をするようになった。現在も旅をする際は主にフェリーを利用していて、多い時は年間70回ほど乗船している。
「何がきっかけでフェリー旅好きに?」
船を交通手段として使っている人間というのは思いのほか少ないようで、物珍しそうによく訊(き)かれる。特定のきっかけや理由はなく、自分の中に潜在的にある「好き」と感じる要素がフェリーには集まっている。そんな「好き」のかけらや初心者への注意点を紹介していきたい。
フェリーの魅力三つ
「フェリーの旅」と聞くと、真っ先にどんな光景が思い浮かぶだろう。私自身、海のない埼玉県で育ってきたため、船というものに馴染(なじ)みがなかった。実際に乗船してみると、船旅だから味わえる魅力がたくさんある。
まず「船内を自由に歩き回れる」ということ。フェリーは「動くホテル」と形容され、長時間過ごせるようレストランや大浴場が備わっている。客室もさまざまで、洗面台やシャワー付きのホテルのような客室もあれば、カプセルホテルのような寝台が設置された相部屋もあり、予算と好みに合わせて選べる。最近はひとり用の個室が増えてきており、パブリックスペースものんびり過ごせるようなプライベート空間を重視したフェリーが登場している。以前よりもひとり旅がしやすくなったと感じている。
シートベルトに固定されることなく、好きな時に好きなことができるのは、大きな魅力だ。
そしてもう一つは「非日常である」ということ。大きなホテルのような乗り物が定期航路として海上を移動している、というのが船に馴染みのない人間にとっては、そもそも不思議ですごいことだ。デッキに出れば一面大海原。水平線からの日の出や日の入りを、時間をかけてじっくり眺める、といった非日常が船旅では日常になる。

フェリー乗船中、大雨の後に虹が現れた。「これだから船旅はやめられない」と感じる瞬間
最後に「船は時間がかかる」ということ。他の交通手段であれば数時間でたどり着いてしまう旅路をあえて十何時間、何十時間かけて移動するぜいたく。少しずつ移り変わる景色を眺めながら、確実に自分が遠くへ向かっているという感覚を味わうことができるのだ。
長時間の乗船でも意外とあっという間で、船内を探検して写真を撮ったり、趣味の絵を描いたり、昼寝をして過ごしているうちに目的地の港が見えてくる……というのが毎度のことだ。いつも「もっと乗っていたい」と後ろ髪を引かれながら下船している。

旅の最中にスケッチするのは「その瞬間に見たものや感じたことを描き留めておくと、後で自分だけの宝物になるから」(筆者)

船旅ってハードルが高い?
今までたくさんの人と船旅の話をしてきた中で「楽しそうだけど、でも……」と続く言葉の多くが揺れや船酔いに対する不安だった。私自身もそうだった。乗らない人にとってはまず船の揺れというものが想像しにくい。そして万が一酔ってしまった場合、そこから逃げることができない恐怖もある。
そういった不安がある場合、ひとまず酔い止め薬をお守りにしながら瀬戸内海の航路に乗ってみることをおすすめしたい。陸と陸の間の内海を通っていくので、とても穏やかで波も少ない。私が初めて選んだ長距離フェリーが阪九フェリーだった理由もこれだ。
関西~九州航路は12時間ほどかけながら夜に出港して翌朝に到着するものが多いので、食事をして風呂を済ませて横になったらあっという間に目的地だ。陸が近いこともあってインターネットがつながりやすいし(※)、航路によっては明石海峡大橋などをくぐる楽しさもある。取っ付きやすく、しかも乗船中は見どころが多い魅力的な航路だ。
「楽しいな」と感じたら、少しずつ色々な船を乗り比べてみてほしい。
※船が外洋に出ると電波が届かず、スマホやタブレットが使えない場合が多い。

快適な船旅のために
長距離フェリーであれば、タオルや歯ブラシなど最低限のものは船内売店で取り扱っているか、客室に備えられている場合が多い。私がおすすめしたい持ち物は「あるとちょっと気分が上がるもの」。私はよくカップ付きのインスタントコーヒーやカップみそ汁を持っていく。船内には給湯できる場所があるので、好きなタイミングでお湯を注ぐ。船という非日常の中に自分の日常が少し添えられると落ち着くのだ。
また、現金はある程度持っておいた方が良い。キャッシュレス決済が可能な船も増えているが、電波状況で使用できないタイミングもある。ターミナルや船内にATMはないし、港に到着した後もローカルなコンビニでは普段使っているキャッシュカードが利用できない、ということもある。大浴場のコインロッカーやコインランドリーで必要になる場合もあるので、100円玉をいくつか持っていると安心だ。

ひとりになりたいなら船旅を
私はどうしてこんなに飽きもせず長距離フェリーで旅をするのだろうと考えたことがある。たどり着いた答えは「ひとりになりたいから」だった。日常で擦り減った心を抱えながら船に足を踏み入れると、不思議と心が軽くなるのを感じる。誰にも干渉されず、波の音や船のエンジン音に耳を傾けながら海を眺めていると嫌なことを忘れ、「今、自分は何にも縛られずに、自分のやりたいことを選んで自由に過ごしている」と満たされた気持ちになる。
船という乗り物は自由度が高いからこそ「こうするべき」というルールはない。最初のひとり旅で、船のエントランスに一歩足を踏み入れた時の感動をずっと覚えている。ぜひ、船に乗る旅をしてみてほしい。船だからこそ味わえる旅情は言葉で表現しきれないほどに極上だ。
文・写真・イラスト/吉澤慶子(イラストレーター)
初心者におすすめのフェリー3選
阪九フェリー(泉大津・神戸~新門司)
穏やかな瀬戸内海を行き来するので揺れがほぼない。船内は豪華で露天風呂があり、レストランのメニューはカフェテリア方式で豊富。手頃な料金、多様な客室タイプ、夕方出港して翌朝到着するスケジュールなども取っ付きやすい。明石海峡大橋をくぐるのも見どころ。
商船三井さんふらわあ 関西〜九州航路(大阪~別府)
大阪~別府航路の「さんふらわあ くれない・むらさき」は、豪華客船のような内装が美しい。レストランのバイキングも豪華(チョコファウンテンがドーンと置かれている)。大阪発なら、ほぼ駅直結のフェリーターミナルから乗船できるので、アクセスも良い。
東京湾フェリー( 浜金谷~久里浜)
東京湾の浦賀水道を横断する短距離フェリー。片道約40分の航路なので、「ちょっと船旅も取り入れたお出かけをしたいな」という方にぴったり。船内売店で販売している横須賀カリーパンをかじりながらデッキで海を眺めたい。大型の船舶が近くを通ることもある。
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2026年6月号)
(Web掲載:2026年5月26日)


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