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【にっぽんクラフト蒸溜所紀行 vol.3】月光川蒸留所 GAKKOGAWA DISTILLERY<山形・遊佐町>

場所
> 遊佐町
【にっぽんクラフト蒸溜所紀行 vol.3】月光川蒸留所 GAKKOGAWA DISTILLERY<山形・遊佐町>

標高2236メートルの鳥海山は年間降水量の多さから「水の山」とも。蒸留所は写真左下の月光川河口のそばにたたずむ

海と山が育む豊富な湧水が生み出すふくよかな味わい

庄内平野の最北端、山形と秋田の県境に屹立(きつりつ)する独立峰・鳥海山(ちょうかいさん)は、その裾野が磯に触れるほど日本海近くにある。すぐ横を流れる対馬海流の暖かい水蒸気が大量の雲となり、冬の季節風に運ばれ山にぶつかるため、鳥海山には多量の雨や雪が降る。それらは中腹に広がるブナの森で沢や滝となり、あるいは大地の下に続く溶岩層の間を抜け、麓の町へ届く。遊佐(ゆざ)町に多くの自噴泉があるゆえんだ。

そんな豊かな湧水を使いウイスキー造りを行っているのが「月光川(がっこうかわ)蒸留所」。隣の酒田市で天保3年(1832)の創業以来、190年にわたり清酒造りを続けてきた「楯(たて)の川酒造6代目・佐藤淳平さんが〝世界と戦える総合酒類メーカー〟になることを目指し、2021年に設立。2023年から蒸留をスタートした。

鮭が遡上する清流・月光川の河口近く、吹浦地区に佇む蒸溜所を訪れ、まずは蒸留器を窓越しに眺めるゲストルームへ。

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施設案内と試飲をするゲストルーム

「蒸留工程で1日に5〜6トンもの水を使うため、水質の良さはもちろん水量があることも大切な条件。全て揃(そろ)っていたのが遊佐町のこの場所でした」と話すのは、蒸溜責任者の長谷川千浩さん。会社がウイスキー分野に進出すると聞き、自ら志願して着任したという。誰にも知見がない洋酒づくりに一から関わり、理想のウイスキーを作ることに大きな魅力を感じたと、長谷川さん。楯の川酒造で日本酒造りに携わってきた経験をもとに、0.1度単位で温度調整が可能な清酒用サーマルタンクを発酵槽に使用。微調整をしながら97時間かけてゆっくりと麦汁を発酵させているという。原料となるモルトはイギリス・ポールズモルト社のノンピート。酵母はフランス・ファーメンティス社の乾燥酵母を使用しているが、酵母培養タンクでは様々な酵母を自社培養し、味づくりの可能性を模索していると続ける。現在は3種類の酵母を使用しているそうだ。

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原料となるモルト、イギリス産ロリエット種のノンピート。2400リットルの麦汁を発酵タンクへ移し、酵母と合わせ約4日間かけてゆっくり発酵させている

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発酵中の麦汁の表面

「完成したもろみをあのポットスチルで蒸留します。右が初留に使うランタン型のポットスチル、クリーンで綺麗な味わいになります。左は再留用のストレート型。ラインアームの角度も下げているので、力強いモルトになるんです」

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右が初留用のランタン型、左がストレートネックの再留用ポットスチル。楯の川酒造の酒質と同じ「クリーンでエレガントな風味づくり」を目指す

こうして生まれたニューポットを樽詰めし、熟成させる。蒸留棟に隣接する貯蔵棟に足を踏み入れると、心地よい木の香りに包まれた。見るとそこには天井近くまで組み上げられた杉材のラック。そしてラックの足元には溝が掘られ、微かな音を立てながら水が流れていた。

「地下水を流すことで湿度が79%になるよう、建物全体を加湿しているんです」

いかにも水の豊かな土地らしいアイデア。ここではバーボン樽やシェリー樽、ワイン樽など数種類の樽が使用されているが、ユニークなのがバーボン樽にジャパニーズオークと呼ばれるミズナラ材の鏡板をはめ込んだ〝ハイブリッド樽〟だ。酒田市内で作られているもので「2年ほどこの樽で熟成させたものを飲んでみると、それぞれの樽の特徴がちゃんと出ていて。すごく面白いですよ」とは、セールスマネージャーの塚形直記さん。長谷川さんの幼馴染で、共にこの新たな事業に夢を託すスタッフの一人だ。

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バーボン樽の天板をミズナラ材にしたハイブリッド樽などが並ぶ貯蔵庫

最後にゲストルームへ戻り、この春発売されたばかりの「ニューボーン 2026エディション」を味わう。ニューボーンとは樽詰めから3年未満である熟成途中の若いウイスキーのこと。2024年にバーボン樽に詰められた原種を厳選しヴァッティング(フレンド)した20ヶ月熟成の〝若者〟だが、一口味わうとクリアで吹くよかな甘みが印象的。熟成を重ねるうちに、よりまろやかな味わいに育って行くのだろう。〝透明感があるエレガントな味わい〟を目指す蒸留所の志を感じる一杯には、仕込み水でもある湧水が添えられていた。

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2026年3月26日に発売された、バーボン樽20か月熟成の「NEWBORN 2026 Edition」。バニラを思わせる甘さに洋梨のニュアンスを感じる柔らかな味わい

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蒸留された原酒を製造スタッフ全員で官能テストし、最適なタイミングで樽詰めする

春は山菜、夏は岩牡蠣、秋は鮭。鳥海山の美しい佇まいと共に、豊かな庄内の食材とのマリアージュを楽しむ旅を、おすすめしたい。 

文・奥紀栄


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月光川蒸留所 GAKKOGAWA DISTILLERY

住所:山形県飽海郡遊佐菅里37-14
TEL:0234-25-3971

交通:JR羽越本線吹浦駅から徒歩15分。日本海東北道遊佐菅里ICから約10

■見学について

毎週月・水・金・土曜日(祝日の場合は予約カレンダー参照)の1030分から所要1時間30分の見学ツアーを実施。原酒や熟成中のウイスキーの試飲、見学者限定のギフト付きで5,500(税込)。定員6名まででウェブサイトから要予約。

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※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2026年8月号)
(Web掲載:2026年7月3日


Writer

奥 紀栄 さん

神奈川生まれ。新卒で旅行読売出版社に入社し編集道を叩き込まれたのち、ライフスタイル誌や機内誌、料理専門誌編集部などで研鑽を積む。国内外の気候風土が育んだ歴史・文化を軸としたテーマ性の高い紀行記事や人物インタビューが得意。建築・工芸・食文化など、暮らしに根ざした企画はもちろん植物&鉱物も守備範囲。好物は米と温泉。

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