【私の初めてのひとり旅(一人旅)】山口恵以子さん 仙台、京都、大阪(1)
やまぐち・えいこ[小説家]
1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒業。2013年、旧丸の内新聞事業協同組合の社員食堂で勤務中に『月下上海』で第20回松本清張賞を受賞。『食堂のおばちゃん』(角川春樹事務所)、『婚活食堂』(PHP 研究所)、『ゆうれい居酒屋』(文藝春秋)の「食と酒」シリーズなど著書多数。最新作『給食のおばちゃん』もシリーズ化の予定。
大好きなバンドを追って仙台へ、おいしいものと巡り合う喜び
初めてひとり旅をしたのは30歳、東京都内の宝石店で派遣店員をしていた頃だった。それまで一人で泊まりがけの旅行をしたことは一度もない。私は決して旅行好きではなく、旅行と言えば家族旅行と修学旅行、社員旅行くらいしか行ったことがなかった。それなのに一人で仙台まで出かけたのは、大好きな日本のハードロックバンド「VOW WOW(ヴァウワウ)」のコンサートに行くためだった。
2024年に、30数年ぶりの再結成で話題になったVOWWOWは、1980年代後半はイギリスを拠点に活動していて、日本公演の機会は限られていた。私は数少ないコンサートに一回でも多く行きたくて、生まれて初めて一人で新幹線に乗って仙台へ向かったのだった。
正直、コンサート以外の記憶は乏しい。終演後は一人でビジネスホテルに宿泊し、コンビニ弁当を食べて……という寂しい体験だった。一つだけ印象的だったのは、ホテルの近くにスーパーのダイエーがあって、食品売り場の「笹かまぼこ」が東京と同じ紀文食品の製品だったことだ。そして店員さんはみな標準語を話していた。
「仙台も東京も変わんないなあ」 そんな通りいっぺんの感想を抱いて、私は東京へ帰った。

VOWWOWのコンサートのために訪れた仙台の風景。街の中を広瀬川が流れる(写真/ピクスタ)
その後のひとり旅もすべてVOWWOW 絡みで、90年のグループ解散後は、ボーカルの人見元基(ひとみげんき)さんのソロコンサートを見に、京都と大阪に行った。やはりコンサート以外の思い出は貧弱極まりなく、本場のタコ焼きがそれほどでもなかったこと、梅田のデパ地下で食べた「ビフカツ」がやたらおいしかったことくらいしかない。とほほ。
文・写真/山口恵以子
【私の初めてのひとり旅(一人旅)】山口恵以子さん 仙台、京都、大阪(2)へ続く(8/19公開)
(出典:「旅行読売」2026年8月号)
(Web掲載:2026年8月18日)


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