【私の初めてのひとり旅(一人旅)】山口恵以子さん 仙台、京都、大阪(2)
酒席を重ねることで料理や酒についての知識を身に付けた

やまぐち・えいこ[小説家]
1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒業。2013年、旧丸の内新聞事業協同組合の社員食堂で勤務中に『月下上海』で第20回松本清張賞を受賞。『食堂のおばちゃん』(角川春樹事務所)、『婚活食堂』(PHP 研究所)、『ゆうれい居酒屋』(文藝春秋)の「食と酒」シリーズなど著書多数。最新作『給食のおばちゃん』もシリーズ化の予定。
わずか2年で全国を踏破し、美食と酒を知り尽くすことに
【私の初めてのひとり旅(一人旅)】山口恵以子さん 仙台、京都、大阪(1)から続く
そんな私が2021年からは、『本所おけら長屋』シリーズの人気作家畠山健二さんのトークショーの相手役に指名され、わずか2年で北海道から沖縄まで、ほぼ日本全国すべての地域を踏破することになったのだから、人生とは不思議なものだ。
旅行は出版社がアテンドしてくれて、レンタカーで各書店を巡り、夜は書店員さんをお招きして地元のおいしいものと地酒をいただいた。お陰で私は全国の地理と食べ物と酒にやたら詳しくなった。
特に、九州全県をレンタカーで回ったのは良い経験になった。鹿児島や長崎は非常にアップダウンが多いが、佐賀に入ると真っ平らになる。佐賀平野だ。だから佐賀は昔から水田が多く、稲作が盛んで、米で作る日本酒から「鍋島」という銘酒が生まれた。土地の形状によって産業が違ってくるということを、身をもって実感できた。
それに、宮崎から鹿児島、沖縄にかけてのラインが「豚肉文化圏」、大分から長崎にかけては「鶏肉文化圏」、熊本は「馬肉文化圏」というのも、肌感覚で伝わってきた。

見渡す限り水田が続く佐賀平野(写真/ピクスタ)
26年4月に上梓(じょうし)した『給食のおばちゃん 食べるのは苦手』(理論社)には、その経験がいかんなく発揮されている。「伝説の管理栄養士」である給食のおばちゃんが日本全国の小学校をさすらい、生徒の悩みを解決する話で、舞台となった地域では土地の名産品が給食として登場する。熊本の太平燕(たいぴーえん)、長野のサンガ焼き、大阪の串揚げ、札幌のラム肉料理などなど。他にもいっぱい出てくるので、読んでくださいね。
今は仕事が忙しすぎて、ひとり旅を楽しむ時間はない。それでも、こうして全国の土地柄と名産品に詳しくなった今、あの頃を思い返すと、本当にもったいないことをしたと残念な気持ちになる。せっかく仙台に行ったのに、どうして牛タンを食べなかったのだろう。大阪ならちりとり鍋も食べればよかった。京都はおばんざいの店もよいけど、実は中華料理の老舗もあるのに……。
もう一度ひとり旅のチャンスを与えられたら、一つの県に2泊は滞在したい。県内をくまなく回って、名産品と地酒を堪能したい。同じ県でも一つ山を越えると文化圏が違ったりするので、楽しみは尽きない。山形の「いも煮」だって、「牛肉で醤油(しょうゆ)汁」と「豚肉で味噌(みそ)汁」があるんですよ。両方食べたいじゃないですか。
何とか体が動くうちに、もう一度一人で旅ができますようにと、切に願っている。
文・写真/山口恵以子
(出典:「旅行読売」2026年8月号)
(Web掲載:2026年8月19日)


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