【旅する喫茶店】仏蘭西茶館(釧路)
土壁やレンガの壁が繁華街の喧騒を遮断する
釧路の盛衰を知る隠れ家的な純喫茶
根室線特急列車で釧路駅に着いた頃には、もう夜もとっぷりと更けていた。駅を出ると、霧とも小雨とも分からない湿った空気がシャツを濡らした。時折響いてくる低音は、霧笛(むてき)だろうか。乗降客が去った駅前は寂しい。ひとり旅の私は、人恋しさにさいなまれ、繁華街へ向かった。コーヒーでもと歩いていたら、雑居ビルの入り口で「仏蘭西茶館」(フランスさかん)の看板が地階へ誘っていた。
シャンソンが流れる店内で、ゆっくりとコーヒーを落としていた主人は鈴木克衛(かつえ)さん。1972年の創業当時は真っ白だったという壁は、タバコの煙で煤(すす)けたのか茶色に。石室のような重厚感を醸し出していた。テーブルやイス、ライトなどはアンティーク調。地階で窓が乏しいことも手伝って、隠れ家の趣だ。
純喫茶を謳(うた)うだけあって、釧路で初めて出したというウインナコーヒーなどメニューはオーソドックス。パフェは酔客にも人気とか。
「このあたりは釧路一の繁華街だけど、ずいぶん静かになったね。以前はデパートもあって、買い物客や従業員がよく寄ってくれたけど」と少し寂しそうな鈴木さん。「漁船が港を埋め尽くす光景も見られなくなった」と言うが、市の中心部では再開発が決まり、新しい釧路の街づくりが進んでいる。
半世紀近く釧路を見てきた主人と話し込むほどに、時にはこんなひとり旅もいいなと思えてきた。
文・写真/渡辺貴由
仏蘭西茶館
住所:北海道釧路市末広町5-5 末広ビル地下1階
交通:根室線・釧網線釧路駅から徒歩10分
喫煙:可
℡0154-22-9666
(出典 「旅行読売」2014年8月号)
(ウェブ掲載 2019年12月24日)