楽々ハイク 立山黒部アルペンルート室堂平
●歩行距離2.8㌔ ●歩行時間1時間25分 ●難易度 低
立山信仰の山へ 北アルプスの雲上の花畑を歩く
世界有数の山岳観光ルート、立山黒部アルペンルート。バスやロープウェイを乗り継ぐだけで3000㍍級の山上に気軽に行けるとあって、国内外から観光客が絶えない。
特に混み合う夏のトップシーズンは、アルペンルートの公式サイトの「混雑予想カレンダー」を確認しておこう。カレンダーでは、なんと9時前から混雑するようなので、前泊して始発に乗るのがよさそうだ。
この日の宿はアルペンルート起点に程近い大町温泉郷へ。扇沢行きバスは5時台から出ている(季節により変動あり)。翌日の出発に備え早めに休むことにした。
最大高低差1975㍍! 六つの乗り物で山脈を越える
早朝、いよいよアルペンルートへ挑む。道中のレストランは混雑するので、宿で手配するか駅で弁当を買っておくといい。最初の乗り物は関電トンネルトロリーバス。トンネル内で県境を越えて富山県に入った。
バスを降り220段の階段を上ると、地面から堰(えん)堤までの高さが日本一の黒部ダムが待っていた。2016年に完成したレインボーテラスでは、観光放水の水しぶきがかかるほど堰堤の近くまで行ける。午前中は虹が見えやすく、二重の虹がかかることもある。
名残惜しいが混雑を避けるため黒部ケーブルカー、立山ロープウェイと乗り継いでいく。ロープウェイの終点、大観峰の展望台に上る。遠くに見えるのは、先ほど通った黒部ダムやエメラルド色の黒部湖。絶景を目に焼きつけ立山トンネルトロリーバスに乗る。
合計乗車時間約40分、四つの乗り物を乗り継いでようやく目的地の室堂に到着。標高2450㍍、アルペンルート最高地点だ。歩き出す前に予約不要の室堂案内ガイドツアーに参加しよう(有料、30分)。立山自然保護センターで室堂の基本情報について解説してくれる。立山三山を巡る本格的な登山コースから、車いすで行けるバリアフリーコースまで、時間と体力に応じで楽しみ方はさまざま。
「みくりが池周辺はライチョウの生息地です。夏は子育て期なので、かわいいヒナの姿が見られるかも」とインフォメーションセンターのスタッフ。先ほどライチョウが目撃された場所を教えてもらい、1周1時間の周遊コースへいざ出発!
7月の平均気温は14度とあって涼風が心地よい。だが紫外線は強く気圧も低い。高地トレーニングに近い気候なので、体を慣らしながらゆっくり歩こう。
歩道は整備されているが石畳で少し歩きにくい。「この石は麓を流れる称名川流域から運びました。環境に配慮して身近な材料で整備するのが国立公園の基本的な考え方なのです」というスタッフの言葉で多少の不便さも納得できた。
室堂平一帯はチングルマ、タテヤマリンドウなど100種類以上が咲く高山植物の宝庫。かれんで貴重な花々を見ながら40分ほど歩き、エンマ台で弁当を広げる。
眼下に広がる地獄谷は今でも噴煙が吹き出す危険地帯だ。立山信仰が広まった江戸時代、ここを現世の地獄と考え死後の世界を擬似体験したという。ここが地獄なら雲上の花畑は浄土の象徴か。
美しき地獄と浄土を後にして下山する。立山高原バス50分、立山ケーブルカーに7分乗り立山駅到着。標高が下がるにつれ徐々に蒸し暑くなっていくのが分かる。立山駅から富山駅までは富山地鉄電車で約1時間。新幹線の車窓を流れる穏やかな立山連峰を眺めていると、あの山脈を越えて来たのだなぁ、と感慨深く思えた。
(旅行読売2017年8月号)