【旅する喫茶店】紅茶の店しゅん(盛岡)
店内の木目の壁にはサインがびっしり。中央は松本征子さん・亜弓さん親子
ダージリンティーの新芽の香り
盛岡の紺屋町を歩いていて、その先の石畳の葺手町(ふきでちょう)商店街にしゃれた紅茶の店を見つけた。2階建ての店内はユニークな造り。中央にグランドピアノが置かれ、その前の洋風階段を上がると、2階席が左右に分かれている。客席の片側は壁がなく、天井の梁が見えて開放感がある。
「建物は古い町家を改装しました。梁(はり)は前の日本家屋のもの。間取りや階段は私のイメージです」と店主の松本征子(せいこ)さんはマーマレードを仕込みながら言う。和洋折衷とはこのこと。1985年に店を開いたきっかけは、知人からもらった茶葉。「インド・ダージリンのファーストフラッシュ(春摘み茶)でした。こんなに香り、味がいいのかと、それまでの紅茶観が覆りました」
現地に買い付けに行き、帰国後、友人に配ったところ評判がいい。やがて店をもつ夢が生まれた。今でも数年に一度、インドに通う。インドの知人の医食同源(いしょくどうげん)の考えにひかれて作る「わがままカレー」が人気だ。
ふくよかな紅茶の香りを楽しんでいると、壁に書かれたたくさんの落書きに気づいた。「ミュージシャンのサインです。音響がいいらしく、ライブをやりたいと頼まれて」と松本さん。昔ファンだった男女デュオの懐かしい名もあった。こんな風に食や音楽、人柄にひかれ集まれる場所、くつろげる店があるのは、何と幸福なことよ。
文/福崎圭介 写真/三浦健太郎
住所:岩手県盛岡市中ノ橋通1-3-15
交通:東北新幹線盛岡駅から左回り循環バス12分、盛岡BC下車徒歩5分
TEL:019-623-3036
(出典 「旅行読売」2020年7月号)
(ウェブ掲載 2020年10月24日)
旅行読売出版社「旅する喫茶店」2021年9月1日(水)発売 定価1430円(税込)