【旅する喫茶店】光原社 可否館(盛岡)
ステンドグラスやレンガ壁、アンティークな調度が印象的な店内
宮沢賢治が名付けた、盛岡を象徴する店
連載「旅する喫茶店」を始める時、イメージしていたのがこの店だった。ユニークな歴史、個性的な建物、こだわりのメニュー、旅人がくつろげる静かな空間、そのすべてがある。
歴史は古く、魅力的だ。出版社として出発し、大正後期の1924年、創業者の及川四郎は盛岡高等農林学校時代の先輩だった宮沢賢治の童話集『注文の多い料理店』を刊行。光原社(こうげんしゃ)という名は賢治が命名したものだ。その後、南部鉄瓶や漆器の製造販売を始め、戦後に民藝運動を提唱した柳宗悦(やなぎむねよし)ら識者が集うサロン的な場所となり、彼らの思想に共感して65年、陶磁器などを扱う民芸品店となった。その7年後、休憩できる場所をと敷地内に喫茶店が生まれた。
朝の光が可否(コーヒー)館のステンドグラスを透過し、漆(うるし)塗りのテーブルに原色の色を映す。年季の入った民芸品のイスや、手触りの良い陶器のカップに使い手の愛着を感じる。「職人が手仕事で作った道具は経年変化が楽しめます」とスタッフ。「庶民の暮らしの中に美しさを見出したのが民藝運動。その姿勢は賢治の考えとも通じるものがあったかもしれません」
賢治は生前2冊しか本を出さず、無名の存在だった。クラシック音楽が流れる店内でコーヒーを飲み、庭の緑を眺める。「きれいにすきとほった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます(※『注文の多い料理店』序より)」。早世した詩人の言葉を想った。
文/福﨑圭介 写真/三浦健太郎
住所:岩手県盛岡市材木町2-18
営業:10時~ L.O.17時30分/毎月15日(土・日曜、祝日の場合は翌平日)休
交通:東北新幹線盛岡駅から徒歩10 分、または盛岡駅から循環バス3分、材木町南口下車徒歩2分
TEL:019-622-2894(光原社本店)
※掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2023年7月号)
(Web掲載:2023年7月20日)