緑あふれる空間、全8室露天風呂付きの古民家温泉宿
巨石をくり抜いた露天風呂が魅力の客室「山桜」
二人の距離を近付ける宿
大分と県境を接する熊本県の阿蘇小国郷エリアは、黒川温泉を筆頭に名湯秘湯の宝庫。涌蓋山の麓に広がるわいた温泉郷も風情ある湯処として親しまれている。温泉郷内の一つが、6軒の宿が集まり共同湯もある山川温泉だ。
「山川ZENZO」は2019年5月開業と新しい。不動産業を営む藪田潤一さんが、1級建築士の知人と共同で旅館を買い取り、大規模リニューアル。「二人の距離を近付ける」ことをイメージし、全8室のうち7室が6畳一間というこぢんまりとした宿を造った。そんな思いが早くも話題を集め、「昔を思い出し、夫婦水入らずで温泉を楽しみたい」という熟年世代のリピーターを生んでいる。
客室ごとに趣異なる露天風呂
全室に石造りの露天風呂があり、硫黄の匂い漂う中、いつでも好きな時にかけ流しの源泉を楽しめるのが魅力だ。部屋により、巨石を並べたもの、巨岩をくりぬいたものなど造りは異なるが、どれも野趣豊か。坪庭風のため雄大な展望は期待できないが、かえって素朴な雰囲気が落ち着く。
ワインで味わう囲炉裏料理
もう一つ心引かれるのが、ワインで味わう囲炉裏料理だ。囲炉裏は「囲む」のではなくL字カウンターで、客の前でスタッフが焼く。
「ZENZOという宿名は、禅をイメージしています。無駄をそぎ落とした宿をコンセプトに考えた時、地産地消の食材をただ焼くだけという山の料理が思い浮かびました」と藪田さんは話す。
シイタケ、山芋などの地野菜、ヤマメやアユといった川魚、そして熊本ブランド牛「あか牛」を串焼きで味わう。前菜の馬刺しや締めのキジ鍋も好評だ。料理に合うワインも10数種、知人のソムリエに選んでもらい用意している。ほの暗い室内に流れるジャズの音色がまた、料理の味わいを引き立てる。
静かに水入らずで過ごした翌日は、宿から車で5分ほどにある北里柴三郎の生家を改修した記念館を訪ねてみたい。宿の住所で分かるように、この地は「日本の細菌学の父」と称され、新千円札の顔に選ばれた北里博士の故郷。コロナ収束を祈りつつ、博士の偉業に触れてみたい。
文/天野久樹
<宿データ>
1人分宿泊料金(消費税・サービス料・入湯税など諸税込み)※2020年12月17日現在
1泊2食平日1万5500円~(2人1室)、同1万9900円~(4人1室)、休前日1万7700円~(2人1室)、同2万2100円~(4人1室)
<公式サイト>
TEL:0967-46-6330
(出典「旅行読売」2021年2月号)
(ウェブ掲載2021年2月27日)