観光列車で“海の軽井沢”へ
観光特急「しまかぜ」
絶景を眺めながら終着駅へ
パソコン、テレビ、スマートフォン……。この頃は近くに視点を合わせてばかりだ。はるか彼方を遠望したり、視点を定めずに広い風景をただ眺めたり、そんなひとり旅がしたくなった。せっかくなら美しい海を眺めたいと選んだ目的地は、昭和初期には「海の軽井沢構想」のもとでリゾート化が進められた三重県の賢島だ。
賢島の玄関口は近鉄志摩線の終着駅である賢島駅。近鉄名古屋駅から観光特急「しまかぜ」を使えば、約2時間の道のりだ。専属アテンダント(接客係)に迎えられ、車内に入るとプレミアムシートの豪華さに驚いた。大人がすっぽり収まる大きさで座り心地はソファのよう。窓も大きく、何時間でも快適に風景を眺めていられる。
温泉につかりながら英虞湾一望
カフェ車両で近鉄沿線にちなんだグルメを味わい、席に戻るとほどなく賢島駅に到着。送迎バスで賢島宝生苑へ向かった。2021年3月31日まで「開業25周年記念 日帰りご昼食プラン」を実施しており、昼食と温泉入浴が1人3800円で楽しめる。籠盛りの前菜や旬のお造りなど、目も舌も満足させる料理を味わったら庭園露天風呂へ。正面には真珠の養殖筏が浮かび、大小の船が行き交う英虞湾がドーンと広がり、思わず歓声を上げた。心の底から感動した時は、誰からも話しかけられたくないもの。ひとり旅の特権を実感しつつ、無言で景色に見入った。
新緑と紺碧の海に迎えられ
賢島港まで歩くとスペイン大航海時代の帆船をモチーフにした遊覧船エスペランサが待っていた。これから「賢島エスパーニャクルーズ(英虞湾遊覧)」へ出航すると聞き、急いで乗船する。
「英虞湾はリアス海岸で、複雑な形の半島や大小の島々が海上から見られます。4月下旬になると半島や島の新緑が紺碧の海に映えて、さらにきれいですよ」とは志摩マリンレジャー業務部の仲世古大紀さん。3階展望デッキから望む今の景色も十分に美しいが、これ以上なのか。潮風に吹かれながら再訪を誓った。
小船に乗って料理自慢の宿へ
賢島港に戻り、今度は「あご湾定期船」に乗船する。今宵の宿パール グルメ イン竹正は、船で約25分の前島半島にあるからだ。定期船の発着場(和具浦)から送迎で太平洋側に出ると、和具漁港近くの高台に宿が立っていた。
夕食はもちろん海の幸が主役。この日は食事処「海女テラス」のカウンターで提供され、その奥で調理するオーナーの竹内正博さんが「今日はいいカツオが入ってるよ」などと気さくに話しかけてくれる。食後もしばし雑談が続いたが、これも同行者を気にしなくていい、ひとり旅の楽しみだろう。
翌朝は早起きして、漁港の水揚げ風景を見学。陸ではリヤカーを準備したお母さんたちが漁船の帰りを待ち構えていた。船が接岸すると伊勢エビ漁の網を積んでもらい、作業場までリヤカーを引いていく。みんな元気なこと。こちらまで元気になってくる。
イルカ島へ寄り道も
定期船で賢島港に戻り、賢島駅構内の伊勢志摩サミット記念館サミエールを見て、鳥羽駅に向かう。お目当ては「鳥羽湾めぐりとイルカ島」だ。1周約50分の遊覧船で、名勝三ツ島を間近に見られるほか、イルカ島で下船することもできる。イルカ島にはイルカやアシカのショー、鳥羽湾を一望できる展望台など見どころも多く、島内で一日遊ぶ人も多い。
遊覧船を楽しんだら、最後は鳥羽マルシェで土産選び。新鮮な魚介類や農産物、海苔などが所狭しと並び、尾頭付きの魚は店内でさばいてもらえる。3月以降はタイ、サワラ、スズキなどが並ぶそうだ。施設の近くには鳥羽湾を望む無料の足湯もある。あとは帰りの列車に乗るだけ。時間を気にせず、のんびり足を浸した。
文・写真/内田 晃