【旅する喫茶店】喫茶ドン(高山)
店内の調度は先代の頃から変わっていない
骨董ランプの明かりに照らされて
「古い町並」として知られる上三之町の、宮川を隔てたひと筋西の本町通りにある。高山でも指折りに古い喫茶店と聞いて寄った。天井から下がる骨董ランプの明かりが、年季の入った木製のカウンターや、白いクロスをかけたイスを照らしている。創業は1951年。60年の改装後、内装はほぼそのままという。
2代目の和田恭直さんと妻の直子さん、2人の娘さんが店を切り盛りする。昨年、恭直さんが病に倒れてから営業時間を短縮したが、退院後もカウンターに立ち、ドリップコーヒーをいれ続けている。
20 代の頃にこの店に通い伴侶と出会ったという直子さんは「私にとって喫茶店は憧れでした。昔は仕事を終えた町の〝旦那衆〞が集まり、珍しいコーヒーやスイーツを楽しむ場所だったようです」。当時のモノクロ写真を見せてもらうと、店に立つ先代は黒服、妻は割烹着姿で喫茶店らしからぬ正装。「店名もドン・ファンから付けたとか、空砲からとか、いくつか説がありますね」
直子さんの話を聞いていると、壁の「CAKE&CHOCOLATE」の文字にも、その頃のハイカラな雰囲気が匂い立つようだ。梁にこんな文字が書かれていた。「春夏冬 二升五合」。どんな意味か尋ねると、「商い(秋ない)益々(2升)繁盛(1升の半分)」。いかにもしゃれている。
文・写真/福崎圭介
旅行読売出版社「旅する喫茶店」2021年9月1日(水)発売 定価1430円(税込)