トキ鉄は大海原と田園風景とともに
有間川―谷浜駅間を走る、えちごトキめき鉄道日本海ひすいラインのディーゼルカー
二つの路線があるトキ鉄
初夏の海沿いを列車でのんびり走ったら、さぞかし気持ちいいに違いない。そんな思いがふと頭をよぎった。第三セクター鉄道なら、話題の鉄印ももらえる。近場を探すと、えちごトキめき鉄道(以下トキ鉄)では、SLの乗車体験などもできる直江津D51レールパークをオープンし、記念に特別版の鉄印を販売中だと分かった。
トキ鉄には、直江津駅を起点として二つの路線がある。一つは妙高高原駅まで南に下るかつての信越線、妙高はねうまライン37・7㌔。もう一つは新潟県西端の市振駅までの日本海ひすいライン59・3㌔だ。こちらは海沿いを走るかつての北陸線。まさに思い描いた列車ではないか。さっそく、直江津駅を目指した。
なんと鉄印は15種も!
上越妙高駅から田園風景を眺めながら15分ほど走ると、列車は直江津駅に到着した。まずは鉄印をもらいに行くと「トキ鉄鉄印ミュージアム」と題し、限定版など色とりどりの15種もの鉄印が窓口いっぱいに貼られていた。
トキ鉄には地元高校生コラボ鉄印など、通常版以外にもユニークな鉄印が多く、鉄印の売り上げはトップクラス。新しい鉄印が発売されるたびに訪れるファンも多いという。
「限定版の大半は販売終了してしまったので、今、これまでのバージョンをすべて集約したスペシャル版を制作中です」と営業部の豊岡滋さん。7月に発売された。
鉄道パークがオープン
直江津駅は1886年に新潟県で最初に鉄道が開通した駅。その後も北陸線と信越線が交わる交通の要所として栄えた。
今年の4月にオープンした直江津D51レールパークは、直江津駅の車両基地の一部に開設された鉄道テーマパーク。SLが動いていた時代に使われた転車台や車両を格納する扇形車庫の一部が現存しており、SLや413系急行車両が並んでいる。まさに国鉄時代を思わせる昭和の鉄道風景が広がり、懐かしい気分に包まれた。
おだやかな海も冬は荒れ狂う
直江津といえば、ホテルハイマートの駅弁も名物の一つ。新発売の「にしんめし」を買って、1両編成の下りのディーゼルカーに乗り込む。列車が動き出し、トンネルを抜けると間もなく海が見えてきた。
日本海というと、冬の荒れたさまを想像してしまうが、今の時期はまるで南国のように青くおだやかだ。潮風を浴びたくなって、有間川駅で途中下車した。
ホームに降り立つと目の前は海。ぼんやり眺めているだけで、パッと心がなごんでいく。
日本海ひすいラインにはトンネルが多い。筒石駅は交通の難所で、私鉄では最も長いとされる1万1353㍍の頚城トンネルの中にある、珍しい地下の駅。地上に出るまでに290段もの階段を上らなければならないが、まるで洞窟のようで面白い。
この辺りは山並みが海にせり出しているので、わずかな平地を有効に使おうと、3階建て、4階建ての家が多いとのこと。漁港近くには、間口の狭い独特な木造の家並みが残っている。
日本海最大級のジオラマ
列車はあいの風とやま鉄道の泊駅まで乗り入れているが、日本海ひすいラインの終着は市振駅。海のすぐ横だが、ホームの大半は防風壁で遮られている。端っこから水平線を眺めると、傾き始めた太陽でキラキラと光っていた。この静かな海も、冬には荒れ狂うのだろう。この駅が開業したのは1912年。当時、客車などの照明に使うランプや燃料を入れていた倉庫が今も残っている。
帰りは糸魚川駅から北陸新幹線で東京へ。乗り継ぎの時間に、糸魚川駅併設のジオパルに立ち寄りたい。大糸線で活躍したキハ52の車両や日本海最大級という大型鉄道模型ジオラマが展示され、鉄道模型の運転体験もできる。
鉄道尽くしの充実した1日だった。今度はぜひとも1泊して、妙高はねうまラインで山と緑の車窓を楽しみたい。
文/高崎真規子 写真/三川ゆき江
<問い合わせ>
えちごトキめき鉄道 TEL:025-546-5520
直江津D51レールパーク TEL:025-520-5551
ホテルハイマート駅弁販売(要予約) TEL:025-543-3151
糸魚川ジオステーション ジオパル TEL:025-555-7344
(出典「旅行読売」2021年8月号)
(ウェブ掲載2021年8月27日)
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