網引駅【北条鉄道北条線】
大イチョウの落葉に浮かぶ、約30年ぶりの再建駅舎
10年ほど前の春、初めて北条鉄道を旅したとき、網引(あびき)駅の大イチョウの存在を知り、秋に訪ねたいと思っていたのだが、数年前にその願いがかなった。
兵庫県の「景観形成重要樹木」として、地域住民の手で大切に管理されている樹高約21㍍の大木は、11月に色づき、やがて駅前を黄色く染めていく。この大木を一目見ようと訪ねて来る人も多い。
駅舎は1984年に焼失し、長らくそのままの状態が続いたが、地元企業の寄付などにより2013年に再建。板張り瓦(かわら)屋根の駅舎が、黄色く敷き詰められたじゅうたんに浮かび上がる。
背後には「播磨国風土記(はりまのくにふどき)」ゆかりの糠塚山(ぬかつかやま)を望み、絶滅危惧種の動植物が生息するあびき湿原など豊かな自然が残る。美しいイチョウと貴重な自然環境が息づく網引の風景が心に染みた。
文・写真/越 信行
北条鉄道は粟生—北条町駅間の8駅を結ぶ。前身の播州鉄道、並びに網引駅は1915年開業。1985年に北条鉄道に転換した。
(出典「旅行読売」2019年11月号)
(ウェブ掲載 2021年10月13日)
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