心に響く「笹鳴り」を訪ねて
頭上を覆うように伸びた竹林。時間帯、天候により色合いが変わる様子も楽しみたい
笹の葉音と鳥の声に包まれて
笹鳴りとは、風に吹かれてサラサラと揺れる笹の葉ずれの音を言う。壮大な竹林で笹鳴りを感じてみたいと、宇都宮市の若竹の杜 若山農場を訪ねた。広さ24㌶、東京ドーム約5個分もの敷地に竹林が広がっている。京都などにある竹林と違うのは、タケノコを採るための農場であるということだ。
「江戸初期に先祖が移り住んできた頃は水のない不毛の土地で、米を作ることができず苦労したと聞いています。今日の礎を作ったのは祖父で、春と秋に収穫ができるタケノコと栗の栽培を始めました。今は竹の需要が少なくなりましたが、手入れされた竹林の美しさを知ってほしい。2017年から観光資源として竹林を開放したのにはそんな理由があります」と社長の若山太郎さんは話す。
竹林で風を待つ
園内は、タケノコを採るのに一般的な孟宗竹や、日本古来自生する真竹、黄金色の稈が美しい金明孟宗竹など、約20種10万本もの竹が種類ごとに植えられている。
「それでは竹林の中に入ってみましょう」との若山さんの言葉に促され、ゆっくり土を踏み締めながら進む。「土がふかふかしているでしょう。タケノコにとってこの軟らかさが重要なのです」と若山さん。竹を間引いて根を整理し、その竹をチップにして竹林に戻して肥料にする。軟らかい土の中で成長することで肉質も軟らかくなるという。「自然循環型農法での土作りもぜひ感じてほしい」と若山さんは続ける。
笹鳴りを聞くために竹林の中でしばし風を待つ。若山農場のある宇都宮市北部は、日光連山から吹き下ろす風が強い地域だ。その風に呼応するように竹の1本1本がしなり、葉がサラサラと乾いた音を立てる。野鳥のさえずりも混じり、なんともすがすがしい気分だ。強い風の日には笹鳴りも激しく、打ち寄せる波のように風が笹を揺らす様子が見られるという。
竹器で抹茶が飲める茶屋も
若山農場では散策ができるだけでなく、さまざまに竹と親しみながら過ごせる。
土・日曜、祝日には、竹林の真ん中にテントを張った茶屋で竹を切った器で立てる抹茶を楽しめる。同じく土・日曜、祝日の夜には幻想的なライトアップも施される。さらには竹林の中に張ったハンモックテントに泊まることもできる。笹鳴りに包まれて過ごす一夜なんて、ここでしか体験できない貴重な時間だろう。
竹林が奏でる音はそれだけではない。
5月上旬の朝方には、タケノコが穂先からポタポタと水をこぼしながら伸びる音が聞こえるという。タケノコが成長しきる5・6月には、「竹秋」という季語があるように、竹の葉が黄色くなって落ちる現象が見られる。最盛期には吹雪のように黄金色の葉が舞い散る竹秋はどんな音を奏でるのだろうと想像し、また足を運んでみたいと思った。
文/野水綾乃 写真/三川ゆき江
聴いてみよう! 若竹の杜 若山農場の笹鳴り
<問い合わせ>
若竹の杜 若山農場
TEL:028-665-1417
(出典「旅行読売」2021年6月号)
(ウェブ掲載2021年11月24日)