【鉄印帳の旅】智頭急行、若桜鉄道(1)
夏空の下、石井駅に停車する智頭急行の普通列車(写真/智頭急行)
超高速のローカル線特急で山深くへ
大阪から乗車した「スーパーはくと」の床下からは、グォーン!とエンジンの音が響いている。これから訪ねる智頭(ちず)急行は電化されていないため、特急といえどもディーゼルカーだ。
しかし、ディーゼルカーだからといって侮ってはいけない。上郡(かみごおり)駅でJR山陽線から智頭線に入っても、時速130㌔の最高速度で中国山地の山懐へグングンと分け入ってゆく。このスピードは、智頭急行がほかの第三セクター鉄道とは異なることを表している。
日本の多くの鉄道路線が明治後期から昭和初期に敷設・開業したのに対し、智頭急行が開業したのは1994年。山陰と山陽をより高速で結ぶために生まれた、近代的な高規格路線なのだ。
まずは佐用(さよ)駅で下車し、普通列車に乗り換えてみようと思う。できればもうひと駅、どこかで下車したい。窓口で尋ねたところ「平福(ひらふく)が良いですよ」とすすめられた。
因幡街道の宿場町で途中下車
1時間ほど後の普通列車に乗車。昼下がり、1両のディーゼルカーは乗客もまばらで、ボックス席の片隅では制服姿の学生がおにぎりを頬張(ほおば)っていた。ゆったりとした空気はローカル線そのもので、特急に乗っただけでは分からない智頭急行の素顔があった。
平福は、江戸時代に姫路と鳥取を結ぶ因幡(いなば)街道(智頭往来)の宿場として栄えた。佐用川の河畔には川屋敷と呼ばれる建物や土蔵が並んで立ち、往時をしのぶことができる。
智頭急行の終点である智頭も、因幡街道の宿場町だ。駅で鉄印を求めた後、智頭の町並みを散策することにした。町中を流れる千代川を渡り智頭宿の旧街道にたどり着くと、ちょうど下校時間。ランドセルを背負った小学生たちに「こんにちは! 写真撮っているの?」と元気に声をかけられた。こんな出会いも地方のローカル線ならでは。鉄印をきっかけに、旅に出てよかったなぁと、しみじみ思った。
文・写真/米屋こうじ
■起点までの交通/大阪駅から特急スーパーはくとで1時間20分、上郡駅着
■コースアドバイス/大阪駅から鳥取駅まで直通運転の特急スーパーはくとに乗車すれば、乗り換えなしで智頭線に。大阪駅発9:25に乗れば佐用駅着11:00(いずれも2021年の情報)
<問い合わせ>
智頭急行 TEL:0858-75-6600
(出典「旅行読売」2021年8月号)
(ウェブ掲載2021年11月21日)