駅旅写真家が選ぶ「心に残る冬の駅」7選
羽後太田駅(秋田内陸縦貫鉄道/秋田)
景色が一変する冬の駅舎は魅力的
これまで全国の5700駅を撮影してきた駅旅写真家・越 信行さんが、数ある思い出の駅の中から、冬の7駅を紹介する。
私が「メルヘン」をテーマに全国の駅を撮り始めて今年でちょうど20年になる。もともとは〝乗り鉄〟で鉄道で旅することが好きだったが、2002年の冬、その年の4月に廃止が迫っていた長野電鉄木島線の駅を撮影したことが、写真家としての原点となっている。ゆえに冬には格別の思いがある。そしてなにより普段とは景色が一変する冬はとても魅力的だと感じている。たくさんの感動的なシーンとも巡り合ってきた。
長野県の蓮(はちす)駅では、夜空の下で豪雪地帯を走り抜けてきた列車をしんしんと降る雪が優しく包み込んでいった。同じ長野県の「日本一高い秘境駅」などと称される佐久広瀬駅では、氷点下20度近くに冷え込んだ朝に霧氷が現れ、風に舞った結晶がキラキラと輝いた。
さらに気温が下がる冬の北海道。中でも富良野(ふらの)の盆地は普通鉄道が走る地域では最も気温が低くなると言える。その盆地の南にある布部(ぬのべ)駅では、氷点下30度近くまで冷え込んだ朝に近くを流れる空知(そらち)川からけあらしが漂い、列車から白い煙が噴き上がった。
盆地にある駅では冬ならではの雄大な光景も見られた。横手盆地の北にある羽後太田(うごおおた)駅では、どこまでも青く透き通る朝空の下で、眼前が開けたホームが乗客を待っていた。会津盆地の西側にある根岸駅は周囲を雪原に囲まれた中にたたずみ、地域のシンボルである磐梯山を望むホームから列車が出発していった。
雪は風景を一変させてくれる。私が住む栃木県でも雪をまとった岩船山の麓で、岩舟駅がまったく別な表情を見せてくれた。そして冬と言えば朝日を望む駅も忘れられない。なかでも全国的にも珍しい東側一面が海に面する安和(あわ)駅を、太平洋の大海原から昇る太陽が真っ赤に染めていった。
美しい冬の絶景はさまざまな条件がかみ合って見られるものだが、だからこそ旅人たちの心を魅了してくれるに違いない。
文・写真/越 信行
(出典 「旅行読売」2022年1月号)
(ウェブ掲載 2022年2月12日)