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美しき城へ 小峰城

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> 白河市
美しき城へ 小峰城

桜に彩られた三重櫓(写真/白河市)

 

桜に彩られた三重櫓 被災した石垣も修復

「わが家も食器棚などが倒れて後片付けが大変でしたが、城の石垣が崩れたと知った時には絶句しました」。20年以上にわたってボランティアガイドを務めている、「ツーリズムガイド白河」会長の北住雅雄さんが、東日本大震災の当時の状況を振り返った。

2011年3月11日に発生した東日本大震災は多くの尊い命を奪ったが、貴重な文化財の数々も傷付けた。本丸の南面、西面、北面、月見櫓跡など10か所(本震で9か所、1か月後の余震で1か所)で石垣が崩落した小峰城は、東日本大震災における文化財被害としては最大規模といわれている。

「崩落した石垣は10か所で計約7000個。崩落こそ免れたものの目地の開きやゆがみなどが分かって修復が必要とされた個所をあわせて約1万個の石材が組み直されました。崩れた石垣は、全国から集められた写真などで1個1個の位置を確認して元の場所に戻すという大変な作業だったそうですよ」と北住さん。その結果、2019年3月に石垣復旧工事は完了。復旧工事のノウハウは、後に熊本地震で崩落した熊本城の石垣の修復作業にも生かされた。

今年もまた3月11日がやってくる。「あの日」に先立ち、震災の復興状況をこの目で確認したいと思い、福島県白河市の小峰城を訪ねた。江戸時代の建物を当時の絵図や発掘調査の成果に基づき、木造で復元したという三重櫓(天守に相当)を見てみたいとの思いも、白河に向かう動機になった。この季節に行くからには、間もなく訪れる春を彩る桜の情報を得たいという思いも、旅心を刺激した。

築城の人柱となった娘を悼んで植えられたと伝わる「おとめ桜」。現在は、後年植え替えた桜が残る(写真/白河市)

小峰城は、阿武隈川や谷津田(やんた)川によって形成された標高370メートルの独立丘陵に造られた梯郭(ていかく)式(本丸の周囲に二の丸や三の丸などを階段状に設ける)平山城で、国の史跡に指定されている。南北朝時代に白河庄を治めていた結城氏による築城を起源とし、江戸幕府成立後、初代白河藩主となった丹 羽長重が約4年の歳月をかけて大改修を行い、1632年に完成させた。

歴代城主に松平定信の名も

小峰城は、東北では数少ない総石垣造り(本丸・二之丸)。石材は、阿武隈川流域の丘陵から白河石(安山岩質溶結凝灰岩)を調達したようだ。随所に設けられた高石垣は、いかにも堅固 。伊達、佐竹、上杉といった東北の外様大名たちににらみを利かせる意味もあった。その後の藩主を、榊原、本多、松平(奥平)、松平(結城)、松平(久松)、阿部と、譜代、親藩の各大名が務めている点からも幕府の意図がうかがえる。江戸幕府の老中として、寛政の改革を断行したことで知られる松平定信(第8代将軍・徳川吉宗の孫)も、小峰城の主だった。

本丸の正門「前御門 (まえごもん)」は1994年に 木造で復元された

北住さんの案内で、城内を歩く。本丸北東隅に立つ三重櫓は小峰城のシンボルだが、江戸時代の絵図や発掘調査の成果を基に、1991年に木造で復元された。元の三重櫓は、城郭の新規築造や増改築を制限する武家諸法度(1615年)が出された後に建てられたため、「天守」とは呼ばれないが、天守と同等の格式を持つ建築物と位置付けられたそうだ。元の三重櫓は幕末の戊辰戦争の際、焼失した。

東北線が旧三之丸を貫くなど、白河の街は江戸期の城下町からは一変している。しかし、市内を歩けば、道路の数か所が急に曲がり角が現れる「鉤か ぎ型」になっていることに気付く。敵が城下に侵入するのを遅らせるための工夫で、城下町ならではの仕掛けだ。国道294号はほぼ旧奥州街道で、旧脇本陣柳屋旅館蔵座敷なども北住さんに案内してもらった。

「桜は城の外堀を一周するように植えられています。見頃には、桜と三重櫓が絡んで、外堀の外からの眺めが圧巻ですよ」と北住さん。その言葉を聞き、桜の季節にも足を運んでみたいと思った。


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小峰城歴史館 9時~16時/月曜(祝日の場合は翌日)休、年末年始休/300円/TEL:0248-24-5050 

旧脇本陣柳屋旅館蔵座敷 10時~16時/月曜(祝日の場合は翌日)休、年末年始休/無料/TEL:0248-27-1448(楽市白河) 

白河観光物産協会 9時~17時(3月~10月は~18時)/年末年始休/TEL:0248-22-1147


(旅行読売2022年4月号掲載)

(WEB掲載:2022年3月31日)


Writer

松本浩行 さん

月刊「旅行読売」の元編集長。在任期間は、2020年3月号から2022年9月号まで。

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