幻の巨城の町――近江八幡・安土
「天下布武」の完成も間近。琵琶湖の畔にその城はあった。 主君の怒りを買った豪華料理とは。動乱のひと月は安土から始まった。
光秀渾身のおもてなし
たいの焼き物、ふなのすし、かいあわひ(あわび)、やきとり、さしミ(さしみ)――。
1582年(天正10)5月、織田信長が明智光秀に饗応(接待役)を命じ、徳川家康をもてなした饗応膳の献立の一部だ。武田攻めの功をねぎらうため、信長の歓待は3日間におよんだ。
宴の舞台は安土城。三方が琵琶湖の内湖に接する安土山に石垣を築き、1579年(天正7)に完成した五層七重の天主は高さ33メートル。信長は金箔などで覆われた天主に住み、家臣たちは城内に屋敷を構えた。まっすぐに伸びる大手道や、天皇を迎えるためとも言われる本丸御殿が作られ、天下布武を象徴するような、夢の城だった。
光秀は文字通り「馳走」して膳を用意した。家康の好物である鯛、近江名物の鮒ずし、さらに海がない安土でもアワビなどの海産物を取り寄せた。
一夜にして消えた巨城
しかし、季節は初夏。魚のにおいが信長の怒りを買い、光秀は他の家臣の前で叱責されてしまう。これが、本能寺の変のきっかけの一つになったとも言われている。
翌月の6月2日、光秀は京・本能寺において信長を自刃に追い込む。6月5日、安土城に入城。6月13日、羽柴秀吉の軍勢と山崎で激突し、敗走。落ちのびる道中で落命する。家康をもてなした宴から約1カ月後の6月15日、安土城は一夜にして焼け落ちる。原因は未だ不明だ。
現在、築城時の建造物は石垣の他、摠見寺の二王門と三重塔が残るのみだ。完成から3年で姿を消した巨城。安土を歩いて、その威容のかけらを探してみたい。
430年を経てよみがえる「安土饗応膳」
休暇村近江八幡では、信長が光秀に命じて家康をもてなした「安土饗応膳」を再現し、1日10食限定で提供している。地元有志と博物館研究員の協力を得ながら、味付けを現代風にアレンジ。さらに家康は食べなかった近江牛のすき焼きを追加。430年前の宴に思いをはせながら、近江八幡の名物を堪能できる全21品のコースだ。
1泊2食の宿泊プランで15500円~(税別、平日1人あたり)。食事のみ8800円。
近江八幡市沖島町宮ヶ浜 ☎ 0748・32・3138
安土城郭資料館
内部まで精巧に作られた1/20サイズの安土城天主が圧巻。陶板壁画で再現された安土城屏風絵も展示。
近江八幡市安土町小中700 9時~17時 月曜(祝日の場合翌日)・年末年始休 200円
☎0955・46・5619
まけずの鍔(万吾樓)
桶狭間の戦い以来、連戦連勝を続けた織田信長の愛刀の鍔を模した最中。香ばしい皮に自家製二色餡がたっぷり。1個170円。
近江八幡市安土町常楽寺420 8時30分~18時30分 火曜、1月1日休
☎0748・46・2039
安土駅北口に安土城が出現!
東海道線安土駅北口の壁面が安土城に。大手道の下から見上げる先には、在りし日の天主の姿も。近くには織田信長の像も立つ。安土城郭資料館とともに立ち寄りたい。
安土城天主 信長の館・VR安土城
安土城天主の最上部を原寸大復元。1992年のスペイン・セビリア万博の日本館のメイン展示物を解体移築した。金箔を使った外壁や内部の障壁画も再現されている。館内ではCGで安土城を再現した「絢爛安土城」を上映。
近江八幡市安土町桑実寺800 9時~17時 月曜(祝日の場合翌日)、年末年始休 610円
☎0748・46・6512
近江八幡・安土へのアクセス
電車/東海道新幹線米原駅または京都駅から東海道線にのりかえ近江八幡駅または安土駅下車
車/名神高速竜王ICから国道477号経由約10㌔