名刹を訪ねて夏の大原へ
江戸中期に再建された勝林院の本堂。欄間や蟇股(かえるまた)の立体的な彫刻も見もの
京都市北東部、左京区にある大原はホタルが舞う清流や、のどかな田園風景が残る自然豊かな地。四方が山に囲まれ、全国的にも有名な三千院や寂光院だけでなく、歴史ある名刹が点在している。
勝林院は「声明(しょうみょう)」の発祥地だ。声明とはお経を歌のように唱える儀式音楽で、後に謡曲や浄瑠璃にも影響を及ぼしたという。本堂にはボタンを押すと声明が流れる装置があり、静かな堂内で厳かな雰囲気を味わうことができる。
声明の根本道場である勝林院には、多くの塔頭(たっちゅう)があった。現在残るのは宝泉院と実光院の二つ。宝泉院は近江富士「三上山」をかたどった樹齢700年の五葉松や、客殿西にある庭園「盤桓(ばんかん)園」で知られる。客殿内部から盤桓園を眺めると両柱が額縁代わりになり、まるで一枚の絵のように収まって見えることから「額縁庭園」とも呼ばれる。江戸時代再建の書院の廊下には、伏見城で自刃した武将たちの血の跡がついた「血天井」がある。
実光院は秋から翌年の春まで咲く「不断桜」が有名だ。こちらも庭園が美しく、客殿の南側には江戸時代後期作の池泉鑑賞式庭園「契心園」、さらに西側には回遊式庭園があり、ゆったりと過ごすにはもってこい。
大原北部の山中にある古知(こち)谷(だに)阿弥陀寺(あみだじ)は、参道の天然記念物「古知谷楓(かえで)」をはじめ、数百本のカエデに覆われる紅葉の名所だ。本堂には63歳で即神仏となった開山・弾(たん)誓(ぜい)上人像が祀られている。上人自作といわれ、自分の髪を植えたと伝わる。