【うわさの夏麺】90年続く元祖・冷やし中華 揚子江菜館
富士の高嶺に金雲浮かぶ、揚子江菜館の「五色涼拌麺」
丁寧に調理された具材と麺、タレが見事に調和
その美しい盛り付けは、富士山がモチーフという。「焼豚は春の大地、キュウリは森、タケノコ煮は落ち葉、糸寒天は雪を表しています」とは4代目店主の沈松偉(シェンソンウェイ)さん。
「キュウリからどうぞ」と勧められ、タレをまとわせ、ひと口。シャキッとした歯応えとともに、タレの甘みが際立ち、後から爽やかな酸味が追いかけてくる。ストレートの卵麺はコシが強く、スルスルと喉越しがいい。甘みを抑えた焼豚、八角の効いたタケノコ煮、プリプリのエビなどと麺を交互に食べ進める。もう箸が止まらない。
店の初代・周所橋(チョウスオチャオ)さんは洋務運動(※1)の一環で来日。1906年に開いた店には、孫文や蒋介石、魯迅など留学生が訪れた。日本育ちの2代目周子儀(チョウツイー)さんはざるそばが大好きで、店でも冷たい麺料理を出せないかと思い付く。2年の試行錯誤の末、1933年、今の五色涼拌麺にたどり着いた。これが冷やし中華の元祖と言われている。
雲に見立てた錦糸卵の下には肉団子とウズラの卵が二つずつ。具は外側に八つ、中に二つで10種。「十全十美(=完璧)」な麺料理を目指した。一つ一つの具材に手間暇をかけ、見た目も涼やかな五色涼拌麺。その伝統とこだわりをしみじみと感じられる一杯だ。
(※1)洋務運動:清朝末期の19世紀後半に、西洋の技術を取り入れ、富国強兵を目指した動き。
文/中 文子 写真/三川ゆき江
揚子江菜館
11時30分~21時30分/年末年始休
TEL:03-3291-0218
地下鉄半蔵門線、新宿線、三田線神保町駅から徒歩2分
(出典:「旅行読売」2022年9月号)
(WEB掲載:2022年9月30日)