石原良純 僕がダムを好きな理由(1)
遠方にありながら治水や発電など人間の生活に寄り添う存在であるダムは、それ自体が見どころの巨大建造物であり、近年は観光地としても注目されている。芸能界屈指のダム好きとして知られる俳優で気象予報士の石原良純さんに、ダムの魅力や見方を聞いた。
自然界と人間界の境にあるもの
僕が最初にダムをすごいなと思ったのは、小学生の頃、家族で長野県の松本に旅行に行った時に見た黒四ダム(※黒部ダム、富山)でした。叔父(故・石原裕次郎氏)が映画「黒部の太陽」に出ていたこともあり、家族で「実物を見に行こう」となったのです。
長野県の大町市の扇沢からトロリーバス(※)に乗り、トンネルを走りました。道中、車内アナウンスが流れ、今いるのはダムの建設資材を運ぶ運搬用のトンネルで、この穴を掘るのがいかに大変だったか解説がありました。「破砕帯(はさいたい)」という言葉が耳に残りました。破砕帯は岩石が細かく砕けた軟弱な地層で、掘削途中で破砕帯にぶつかり、ここから冷たい地下水が滝のように溢(あふ)れ出てきたそうです。
トンネルを抜けると、切り立つ黒部渓谷の山並みを背景に、巨大なアーチ式ダムがドカン!と現れ、圧倒されて、「これはすごいもんだなあ」と子ども心にも思いました。堰堤(えんてい)を歩いていくと、穴を掘る作業員たちの姿のレリーフと、工事中に亡くなった方たちの名前を刻んだプレート(慰霊碑)があって、ダムを造ることの大変さを感じました。自然を利用するために人間は苦労し、時に犠牲を払う。ダムという巨大構造物を境に自然界と人間界が分かれていて、その接点にダムがあるような気がして、僕なりに感動があったんです。
下から見上げて堰堤を歩く
大人になってからは、ロケ先などで近くにダムがあると寄るようになりました。僕のダム観賞法は、まず下から見上げます。その瞬間、本当は誰もが驚くはずなんです。人間がこれだけ大きなコンクリートの塊を造ったことに。例えば、都庁も大きな構造物ですが、人間世界の中に立っています。でもダムの場合、ほとんど何もないところに突如巨大な人造物が現れる驚きがあります。
見上げた後は、堰堤まで上がり、自分の足で歩きます。治水だったり、発電だったり、なぜその場所にダムを造ったのか、理由を考えたりしながら。片側を見れば100㍍以上の落差があり、谷底の流れは人が暮らす里(人間界)へつながっています。振り返るとダム湖の向こうには、人があまり行かないような山(自然界)が広がっている。自然の端っこを利用させてもらっているようで、その感覚は初めて黒四ダムを見た時以来、感じていることです。人間が然に挑んだ結果としてダムがある、というような。そこに、ある種の神聖さを感じるんです。
それに、堰堤を上がると谷から涼しい風が吹き上がってきて、理屈抜きに気持ちがいいんです。ダムは標高が高いところにあり、運が良ければ放水(放流)を見られたりもして、夏は特に爽快ですよ。
聞き手/福﨑圭介
プロフィール
石原良純(いしはら よしずみ)
1962年、神奈川県生まれ。俳優、気象予報士。1982年、映画「凶弾」でデビュー。1997年に気象予報士の資格を取得し、報道番組で人気お天気キャスターとして活躍。現在はタレントとしても数多くのバラエティー番組、情報番組に出演。鉄道好き、城好きとしても知られる
※ 黒部ダム……関西電力が黒部川第四発電所に水を引いて水力発電を行い、通称「黒四ダム」と呼ばれる。
※ トロリーバス……道路上空に張られた架線からの電力で運行するバス。長野側の扇沢―黒部ダム間の関電トンネルは2019年から電気バスに転換した。
(出典:「旅行読売」2022年9月号)
(WEB掲載:2022年11月29日)