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【西村知美さんが選ぶ 私の極上温泉】西谷津温泉 宮本家

場所
> 小鹿野町
【西村知美さんが選ぶ 私の極上温泉】西谷津温泉 宮本家

姉妹館「宮本の湯」の「土俵露天風呂」。国技館をモチーフにした土俵になみなみと湯が張られている

にしむら ともみ

1970年、山口県生まれ。1986年、映画「ドン松五郎の生活」の主演でデビュー。現在、テレビ・ラジオなどで活躍。温泉巡りが趣味で、温泉ソムリエマスター、温泉健康指導士などの資格を取得している。読売旅行応援サポーター

 

幕末の豪農の宿ではしご湯 元関取の当主が全力でおもてなし

両国国技館には一度だけ大相撲観戦で訪れたことがあるが、当然ながら、土俵で相撲を取ったことはない。まさか、土俵に上った気分を味わいながら温泉を楽しめるとは、想像もしていなかった。その名も「土俵露天風呂」。のんびりと湯につかり、視線を上にやると、どっしりとした4本の柱と梁(はり)に支えられた豪壮な天井が迫ってくる。奈良県産の吉野ヒノキを取り寄せ、宮大工にこしらえてもらったという。

由緒ある宮本家の12代目当主、宮本一輝(かずてる)さんは、「剣武(つるぎだけ)」のしこ名で活躍した元関取。33歳で現役を引退後しばらくして、父猛治(たけじ) さんから宿の経営を引き継いだ。幕末に建てられた養蚕農家の母屋を改築し、「200年の農家屋敷」を看板に掲げる。「本物の歴史とストーリー、オリジナリティーの三つがこの宿にはそろっています」と宮本さんは自負し、温泉や料理にふんだんに物語性を盛り込む。自身の相撲経験も生かしている。館内には現役時代の化粧まわしや入門同期の元横綱・白鵬らの手形色紙、記念写真、番付表などが展示され、まるで相撲博物館のよう。宿泊客も有名力士のしこ名入りの「力士浴衣」に袖を通せば、気持ちがぐっと高まる。

車で10分ほどの源泉から引く湯は、無色透明でほのかに硫黄の匂いが漂う。ぬるめだが、その分、ゆったりとつかっていられる。柱の向こうに目を移すと、大きな桑の木が勢いよく葉を広げ、柿の実が鮮やかに色付いていた。電車に乗って都心から移動してきた疲れが癒やされる。もう少しつかっていたいところだが、せっかくなので、はしご湯としゃれ込んでみよう。

幕末の農家を改装した素朴な雰囲気
現役時代の化粧まわしなどが展示された部屋で土俵入りのポーズをとる宮本さん

宮本家と併設の「宮本の湯」を合わせると、貸切風呂と共同風呂は計七つある。湯上がりの爽快感を味わいながら、本格的な五右衛門風呂を体験できる「大釜風呂」へ。冷鉱泉なので、この風呂は1~2時間かけて薪(まき)で沸かしている。大釜のへりに足を掛け、恐る恐る湯に入るが、底に敷いてあるすのこのお陰で少しも熱くはない。2人以上だと窮屈になりそうだが、1人ならゆったりしている。さらに青い陶器の浴槽が美しい「陶器風呂」、壁にレンガをあしらった「レンガ風呂」などを回った。初めはぬるく感じたが、はしごするうちに体がぽかぽかになった。推薦者の西村知美さんから聞いていた通り、肌もすべすべになったような気がした。

本格的な五右衛門風呂を体験できる大釜風呂

当主直伝のちゃんこ鍋を堪能

客室は母屋に3室、別邸に3室。いずれも和室で、広々とした間取り。農家ならではの素朴な雰囲気が味わい深い。風呂から上がって一休みしたら、まずは和風庭園の一角にある「蔵BAR(バー)」へ立ち寄る。ここでは、宮本さんのおもてなしで自家製の果実酒を味わえる。里山で採れた果実を漬け込んで熟成させたもので、柿、リンゴ、梨、イチゴ、ザクロ、カリン、ビワなど約50種がそろう。好きなものを飲み比べつつ、現役時代の思い出話や経営の苦心談などに耳を傾けるのが楽しい。

ほろ酔い気分で、いよいよ別邸の食事処へ。座敷の真ん中に囲炉裏(いろり)があり、串に刺した鮎(あゆ)が炭火で炙(あ ぶ)られている。香ばしい煙が鼻をくすぐり、食欲が湧き上がってくる。メインディッシュは何といっても、ちゃんこ鍋だ。宮本さんが相撲部屋でマスターしたちゃんこ鍋をアレンジ。砂糖は使わず、鶏ガラや昆布でダシをとり、鶏団子、野菜、キノコ、豆腐など12種の具材の味が染み出たつゆが絶品だ。相撲は手をつくと負けなので縁起を担ぎ、豚や牛など前足のある動物の肉は避けてもっぱら鶏肉を使うのだそうだ。野菜は、近くで運営する観光農園「秩父ふるさと村」で収穫したものをふんだんに使っている。

長い歴史を持つ農家、相撲、里山料理と、「和」の魅力を実体験できる宿は、海外からも注目を集めてきた。「コロナ禍が収まれば、またたくさんの外国人のお客さんに来てほしい。これからもオリジナリティーにこだわりたい」と宮本さん。日本らしさを発信し、独自のおもてなしを追求していく。

文/山脇幸二 写真/阪口 克

囲炉裏では炭火でちゃんこ鍋を炊き、鮎や野菜を炙る
広々とした「隠居の間」には、元横綱・白鵬も泊まったという

宮本家

料金:1泊2食平日1万7000円~、休前日1万9500円〜(1人1室は2万7000円〜)※掲載時の料金

客室:全6室

食事:夕食・朝食=食事処

泉質:アルカリ性単純硫黄冷鉱泉

貸切:貸切風呂4(宿泊者は無料。併設の「宮本の湯」の大浴場も利用可能だが貸切風呂は有料)

℡:0494-75-4060

住所:埼玉県小鹿野町長留510

交通:西武池袋線西武秩父駅からバス25分、松井田下車徒歩5分/関越道花園ICから26.5キロ

 

(出典:「旅行読売」2022年12月号)

(WEB掲載:2022年12月27日)

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Writer

山脇幸二 さん

2022年6月に編集部に着任し、8月から編集長。読売新聞の記者時代は27年にわたって運動部でスポーツ取材に明け暮れた。一時は月の半分近くが出張という生活で、旅行しながら仕事しているような状態だった。今やその旅行が仕事になろうとは…。趣味はロック鑑賞で、ライブやフェスに通うことで身も心も若さを保とうと悪あがきする。矢沢永吉さんを尊敬し、ともに歳を重ねていける幸せをかみしめる日々。

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