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【小山薫堂さんが選ぶ 私の極上温泉】インタビュー 湯道とは(1)

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【小山薫堂さんが選ぶ 私の極上温泉】インタビュー 湯道とは(1)

シーガイアの中に作った湯室「おゆのみや」で湯と向き合う小山さん。浴槽から湯道具まで職人たちの技が結集している(写真/アレックス・ムートン)

映画『おくりびと』の脚本や、熊本県の営業部長兼しあわせ部長「くまモン」の生みの親・小山薫堂さん。子どもの頃からの風呂好きが高じて、2015 年に「湯道」を拓(ひら)き、自ら家元に。日本の入浴文化を国内外に広めようと活動しています。そんな小山さんに、「湯道」とは何か、そして風呂にかける熱い思いを聞きました。

 

湯の道は心までをも温める

湯道を拓くきっかけは茶道にありました。京都にある1856年創業の料亭の運営を引き継いだ際、茶道と出会い、お茶を体験していくうちに、ただおいしく飲むお茶と、道としていただくお茶って、同じ「飲む」行為なのに価値が変わるなと思ったんです。

茶道でお茶と向き合っていくと、教養が身に付いていったり、美しいものを見る審美眼が磨かれていく。お茶はその人の気持ち一つで色々な部分を磨いてくれる〝装置〟に変わるんですよね。日々、何気なくやっていることで、ほかにそういったことがないかなと考えた時に「あ、風呂があるな」と気付きました。

お茶が体にいいように、風呂はまず気持ちいいですし、血行を良くするなど健康にもいい。お茶のほかに道になるものといったら風呂だ。「湯道」だとひらめいたんですよ。風呂の見方をちょっと変えると、〝幸福創造の装置〟に変えることができるんじゃないかなと思ったんですね。

「おゆのみや」に掲げられた山田宗正さんの筆による掛け軸

湯道を拓くにあたって、京都にある大徳寺の塔頭(たっちゅう)、真珠庵の住職・山田宗正(そうしょう)さんにお言葉をいただきました。それが「湯道温心」です。湯は体を温めるものですけど、湯の道で心までをも温めるという意味です。

湯道では作法に重きをおいていません。タオルを袱ふ紗(ふくさ)みたいに扱ったらコントみたいでしょ(笑)。湯への感謝、湯と向き合う姿勢みたいなものです。湯に入って何を考えるか、その時間をどう過ごすか考え、実践することが湯道だと考えています。

「ひとりのつつしみ」という言葉がありまして、これは小笠原流礼法宗家の小笠原敬承斎(けいしょうさい)さんが教えてくれたんですけど、誰も見ていない所でいかに振る舞うか、そこに礼法の最も大切にする心があるんです。

茶道は人に見せるための美しい所作がある。でも湯道においては、誰かに見られていなくても己を偽らない、見られていないからこそ、自分が正しいと思うことをやる。これがすごく大切なことだと思っています。

飲める水を沸かした湯につかれるって世界的に見ても珍しく、本当にぜいたくでありがたいことですよね。そういう感謝の念は色々な方向へ広がって、自然の偉大さを感じたり、謙虚になれたりする。入浴という時間が、今、目の前にあるさまざまなものをリセットして見つめ直すような場に変わったらいいなと思っています。

聞き手/中 文子

 

【私の極上温泉】湯道とは 小山薫堂さんインタビュー(2)へ続く。

 

(出典:「旅行読売」2022年12月号)

(WEB掲載:2023年1月24日)

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Writer

中 文子 さん

神戸生まれの大阪育ち。学生時代に旅に目覚め、アジア(おもに中国)や国内各地を探訪。旅を仕事にできたら面白そうだ!と旅行読売出版社に入社。広告課、編集部、メディアプロモーション部(広告)を経て、22年4月からメディア編集部所属。現在は、小1の壁と向き合いながら時短勤務中。温泉とお酒、楽器演奏が大好き。

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