駅舎のある風景 上片桐駅【飯田線】
伊那谷の藤棚が色付く季節、段丘の上に立つ駅へ
平地では春も終わりに近付く5月に入った頃、〝秘境駅〞で名高い飯田線に乗り、少し遅れて花の季節を迎えた南信州を行く旅に出た。
飯田線の列車は、天竜川右岸で中央アルプスの裾野に広がる河岸段丘(かがんだんきゅう)地帯を、くねくねと蛇行しながら走る。上片桐(かみかたぎり)駅は、ひと駅南の伊那大島駅から段丘崖(がい)を駆け上がった最初の駅で、標高607㍍の段丘面上にある。
2009年に建て替えられた木目を生かした無人の駅舎は、この駅を利用する松川高校の生徒が美化活動を行っていて、きれいに整備されている。背後に中央アルプスの山々がそびえ、ようやく花期を迎えた藤棚の藤の芳香が駅前に漂っていた。
この一帯は果樹栽培が盛んで、シードルの生産にも力を入れている。近くで購入しさっそく一口。清々(すがすが)しい香りが口いっぱいに広がった。
文・写真/越 信行
飯田線は1943年に四つの私鉄が統合、国有化され誕生。上片桐駅は伊那電気鉄道の駅として1920年開業。飯田駅から約35分
(出典:「旅行読売」2021年5月号)
(Web掲載:2023年1月28日)