【私の初めてのひとり旅】みうらじゅんさん 金沢(2)
みうらじゅん(イラストレーターなど)
1958 年、京都市生まれ。エッセイスト、ミュージシャン。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。1997年、「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞。日本映画批評家大賞功労賞受賞。仏像ブーム、ゆるキャラブームの火付け役としても知られる。著書は『アイデン&ティティ』『マイ修行映画』『永いおあずけ』『さよなら私』など多数。
「なぜ僕は金沢にやって来たのか?の疑問にブチ当たった」
【私の初めてのひとり旅】みうらじゅんさん 金沢(1)から続く
ライブ中は必死だったので忘れていたが、「どうもありがとう!」とシメた後、またもや寂しさが押し寄せてきた。もう、このまま帰ろうかなと思ったが、それでは家出の名目が台無しになる。
ギターケースを下げ、少し街なかをブラブラしたが、なぜ僕は金沢にやって来たのか?の疑問にブチ当たった(当時、愛読していた五木寛之さんのエッセー集『風に吹かれて』の影響だったと思うが)。
もう寒くて適当に見つけた旅館に飛び込んだのはいいが、結構な宿代を請求され、その時点で帰りの旅費を残すのみとなった。本当は能登半島に寄る予定だったが、ま、いい。これで目的は全て果たしたんだから。
その夜、やっぱり心配になってきて実家に電話を入れた。すると母親が、「あんた、友達の家に泊まらせてもろてるんやろ?」と開口一番聞いてきた。「そんな時は何か菓子折りでも持っていかなあかんがな」とお説教が続いたので、僕は「明日、帰る」とだけ言って電話を切った。
ああ、僕の家出は単なる春休みを利用しての1泊旅行だったけど、またひとつ拓郎さんに近づけた気がしてとてもうれしかった。
文/みうらじゅん