【桜の咲く駅へ】若桜鉄道で行く若桜駅(1)
蒸気機関車や機関車に給水するための給水塔も桜に包まれる(写真/北内泰久)
ノスタルジックな昭和の鉄道遺産を彩る桜の里
昭和のたたずまいが残る終着駅に咲く桜を訪ねる旅は、大阪駅からスタート。特急スーパーはくとは、兵庫県の上郡駅から智頭急行智頭線を北上する。郡家駅で若桜鉄道に乗り換えると、終点の若桜駅までは19.2キロ。約30分で到着してホームに立つと、線路を囲んで群生する桜の木が目についた。春になればさぞや、と想像を膨らます。
「先日数えてみたんですけど、80本~100本はありますね」と話すのは若桜鉄道の専務・矢部雅彦さんだ。「数えたんですか!?」と驚きの声を上げたのは、若桜町役場の北内泰久さん。趣味はカメラで、俗に言う〝撮り鉄〟だとか。
2人に案内されて昭和初期に建てられた木造駅舎に入る。照明やソファなど、細部までレトロモダンに改修されていておしゃれ。併設されたカフェから、コーヒーの香りが漂ってきてほっとする。
若桜鉄道沿線にも桜の絶景が点在
若桜駅の待合室の隣は小さな図書室のようなスペースになっている。若桜鉄道の記念誌を開くと、満開の桜に染まる沿線や、駅構内の写真が掲載されていた。桜に彩られたノスタルジックな駅の美しさ。ここは独特な花見の名所なのだと感じ入る。
「沿線には絶景がたくさんありますよ」と、北内さんが時々ページに指を差す。「八東駅と徳丸駅の間の第2八東川橋梁は、桜と菜の花と車両の写真が撮れる絶好のポイントです」と教えてくれた。
昭和初期の1930年の国鉄若桜線全線開通以来、何度も廃線の危機に見舞われてきた。第3セクター方式に転換して運営を継続できたのは、存続を強く願う地域住民の多大な協力があったからだ。
「若桜町は桜の一字が入った町ですし、今後も桜の魅力を広報して盛り上げていきたいです。春になると、ここは桜の里のようになるんですよ」と北内さんが言った。
文/北浦雅子
見頃:3月下旬~4月上旬
レトロな木造駅舎を囲んで100本近くのソメイヨシノが咲く。沿線の安部駅は映画『男はつらいよ』のロケ地で、“寅さんの桜”が記念植樹されている。途中駅のホームや八東川沿いの桜並木も素朴でかれんだ。
■問い合わせ:TEL0858-82-0919(若桜鉄道)
(出典:「旅行読売」2023年4月号)
(Web掲載:2023年3月29日)