【桜の咲く駅へ】津軽鉄道で行く芦野公園駅(1)
芦野公園を横断するように線路が通り、津軽鉄道の列車が桜のトンネルを進む。右手にあるのが芦野公園駅のホーム(写真/ピクスタ)
ローカル線の魅力に満ちた本州最北の私鉄、津軽鉄道
新青森駅で東北新幹線を降りて奥羽線、五能線に乗り継ぎ2時間、五所川原駅にたどり着いた。その隣にある小さくレトロなたたずまいの津軽鉄道の津軽五所川原駅が、今回の旅の起点になる。津軽に遅い春の訪れを知らせる桜の名所を巡る。
津軽鉄道は津軽五所川原―津軽中里駅間の12駅、約21㌔を結ぶローカル線。車内にダルマストーブを置く冬の「ストーブ列車」で知られ、『人間失格』などの小説を書いた作家・太宰治(だざいおさむ)が生まれた金木(かなぎ)町が沿線にあることから「走れメロス号」が運行している。最初の目的地の芦野(あしの)公園駅は、金木駅の一駅先で、桜の名所の芦野公園内にあり、桜のトンネルを走り抜ける列車のフォトスポットとして全国からカメラマンや観光客が集まるようになった。
津軽鉄道はローカル線の魅力に満ちている。交通系ICカードのような文明の利器はない。窓口で職員に行き先を伝え、購入した硬券のきっぷに改札でハサミを入れてもらう。発車時間までを過ごす待合室も、昭和の時代にタイムスリップしたかのよう。胸を弾ませて向かったホームもまた、古き良き鉄道全盛の時代から積み重ねてきた年季を感じる。
小説『津軽』にも登場する太宰治ゆかりの駅
出発したディーゼル車の車内では、普段乗る電車とは異なる揺れが感じられ心地よい。車窓に広がるのはまだ雪がちらほら残る田園。冬は地じ吹ふ雪ぶきが吹きすさぶ雪国の風景も、雪解けの春になればのどかだ。毘沙門(びしゃもん)駅、嘉瀬(かせ)駅を過ぎ、進むこと約30分、目的の芦野公園駅に到着した。太宰の小説『津軽』にも「ぼんやり窓外の津軽平野を眺め、やがて金木を過ぎ、芦野公園という踏切番の小屋くらいの小さい駅に着いて……」と登場する。
ホームに立ち、満開の桜に圧倒される。その美しさの理由は、咲き誇るソメイヨシノの桜花だけではなく、防風林として植樹されたという約1800本の松の緑とのコントラストがあってこそだろう。
約80㌶の芦野公園は東京ドーム約17個分の広さ。公園の半分以上を芦野湖が占めるため、園内はそれほど広くない。駅から湖を目指して進むと桜並木があり、その先に生誕100周年の2009年に建てられた太宰治の銅像が立っている。太宰は少年時代、芦野公園でよく遊んだという。愛用のマントを羽織った姿の像は作家の生家である「斜陽館」の方を向いているそうだが、その前に立った時、のぞき込まれているような視線を感じて思わず姿勢を正した。
文/工藤 健
芦野公園駅
見頃: 4月下旬~5月上旬
「日本さくら名所100選」の芦野公園内にある。東北の駅百選。約1500本のソメイヨシノが咲く園地を列車が運行し、桜のトンネルを抜ける。花期は公園の遊歩道や芦野湖の浮橋、太宰治銅像・文学碑を巡りながら花見を楽しめる。露店が並ぶ金木桜まつりは、4月29日~5月5日開催。
■公園の問い合わせ TEL:0173-38-1515(五所川原市観光協会)
(出典:「旅行読売」2023年4月号)
(Web掲載:2023年4月22日)