【旅の朝ごはん】沖縄第一ホテルで体にやさしい沖縄の伝統料理
朝食は8時、9時、10時と時間制。自家製のゆし豆腐や季節の島野菜が並ぶ
独自の調理法で素材の味をとことん楽しむ
およそ20品もの料理がテーブルいっぱいに並ぶ。使う食材は約50種。那覇市にある沖縄第一ホテルの朝食風景だ。宿泊客以外でも前日までに予約すれば食べられる(3300円)。週末は予約が取りにくいほどの人気だ。
ホテルの創業は1955年。当初、朝食は卵料理やベーコン、トーストなどのアメリカン・ブレックファスト形式だったが、それはどこでも食べられる。初代女将の島袋芳子さんが考案したのが沖縄らしい料理。沖縄の人が昔から食べてきた伝統料理を出すようにしたという。
沖縄には「クスイムン(薬物)」という言葉があり、薬になる食べ物を意味する。かつての琉球王国時代に中国から伝わった医食同源の思想が根付いているのだ。朝食に体によい食べ物を摂って、気持ちよく1日をスタートしてほしい―。そんな思いは、2代目女将の渡辺克江さんに引き継がれている。
「母が女将業から退き、その後2011年には安里(あさと)から国際通りに近い牧志に移転しました。常連のお客様たちから以前の雰囲気をぜひ残してほしいといわれ、街中ですが中庭を造り、ロビーのアンティーク家具も昔のままです。朝食も基本的には変えていませんが、調理法を見直したり、お客様に一皿一皿の食材の効能や特徴などを分かりやすく伝えるようにしています」
渡辺さんは、そのために野菜ソムリエや国際中医薬膳師の資格も取得したという。食材は野菜中心でナーベーラー、青パパイヤ、サクナ(長命草)、ニガナ、島ニンジン、島ラッキョウ、タイモ、紅イモなど、沖縄の伝統野菜がほとんど。食材本来の味を活かすよう、淡い味付けに仕上げている。と言ってもお浸しにしたり、炒めたり、酢の物や白和えにするなど、多彩な味覚を楽しめるので食べ飽きない。食材の持ち味や調理によって甘い、苦い、酸味、塩味を、さらに島唐辛子で辛味を追加。五味をしっかりと感じられる。
色とりどりの器も目を楽しませてくれる。沖縄の焼物「やちむん」の大家、大嶺實清(じっせい)氏、琉球ガラスの第一人者の稲嶺盛吉氏の作品をはじめ、琉球漆器の逸品も使われている。
残念なことに、沖縄が〝長寿の島〟と呼ばれなくなって久しい。しかし、この朝食には、食を命の薬「ヌチグスイ」と考える沖縄の先人の知恵が込められている。これだけ食べても、昼頃にはちゃんとお腹がすいてくるから不思議だ。
文・写真/鳥居美砂
TEL:098-867-3116
客室:全5室
交通: ゆいレール県庁前駅から徒歩8分
住所: 沖縄県那覇市牧志1-1-12
料金: 素泊まりシングル(1人1室)8800円〜、
ツイン(2人1室)1万7600円〜(2人分の料金)
※ 食事は別料金で宿泊者以外にも提供。
朝食3300円、夕食6600円〜(前日までに要予約)
※掲載時のデータです
(出典:「旅行読売」2023年3月号)
(Web掲載:2023年5月3日)