駅舎のある風景 大歩危駅【土讃線】
吉野川の渓谷美と桜並木を見る
「四国三郎」の異名を持ち、徳島県を横断するように流れる吉野川。その支流の祖谷(いや)川には渓谷美で知られる祖谷渓があり、さらに上流にはシラクチカズラで作られたかずら橋が架かる。以前、祖谷渓とその西にある大歩危(おおぼけ)峡を訪ねた際、大歩危駅周辺に桜が植えられていることを知り、花咲く時期に降り立った。
古民家風の造りの駅舎は、改装されているものの、昭和初期の開業当時のものだという。桜並木が駅に沿って続き、大歩危峡の美しい流れを望むホームを列車が行き交う。
駅は2010年に無人化されたが、観光客への影響を心配した地元住民が活性化協議会を設立。駅の清掃などの活動が評価され2018年に手づくり郷土(ふるさと)賞を受賞し、今は観光列車の出迎えや見送りもしている。
春を彩る美しい景色と地元を愛する人々のもてなしに癒やされ、山あいの小さな駅を後にした。
文・写真/越 信行
JR土讃(どさん)線は1951年全線開業。大歩危駅は1935年に阿波赤野駅として開業。岡山駅から特急で約1時間40分
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(出典:「旅行読売」2022年4月号)
(Web掲載:2023年7月1日)