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【岩佐十良さんが選ぶ 私の極上温泉】浅間温泉 富士乃湯(2)

場所
  • 国内
  • > 北陸・中部・信越
  • > 長野県
> 松本市
【岩佐十良さんが選ぶ 私の極上温泉】浅間温泉 富士乃湯(2)

地元の素材を生かした懐石料理。「信州サーモン」「信州プレミアムローストビーフ」など長野ブランドが並ぶ

 

いわさ とおる
「自遊人」代表取締役。1967年、東京都生まれ。クリエイティブディレクター。「里山十帖」(新潟)、「松本十帖」(長野)を開業するなど、温泉宿の経営や再生事業にも携わる。著書は『里山を創生する「デザイン的思考」』(KADOKAWA)、『新潟美食手帖』(新潟日報事業社)ほか

 

家族経営の小さい宿だからこそ目が行き届くおもてなし

【私の極上温泉】岩佐十良さん 浅間温泉 冨士乃湯(1)から続く

浅間温泉は、戦後は団体旅行などで栄え、昭和50年代には70軒ほどの宿があった。が、今は21軒に減り、そのうち地元に根づいた昔からの宿は7軒のみだという。富士乃湯もそのうちの1軒だ。「家族経営だからこそ、お客様ひとりひとりに目が行き届く。小ささも売りの一つだと思うんです」主人の二木(ふたつぎ)伸次さんはこう話す。

繁忙期には学生アルバイトが手伝うが、大女将、主人、若女将の家族3人でもてなす

2年前には高齢者や外国人客がゆったり楽しめるように、10室だった客室を8室にし、ベッドやイスを備えた半露天風呂付きの客室を設けた。宿の規模を大きくして多くの人を集客するより、質の高いもてなしで宿のよさを分かってくれるお客様に来てほしいという思いからだ。

客室はふかふかの座布団がうれしい広々とした純和室(1泊2食1万9950円~)。※掲載時のデータです
半露天風呂付き客室(1泊2食3万950円~)も2室あり、イスとベッドを備える。※掲載時のデータです
客室の半露天風呂。24時間かけ流しの源泉に入れる

プライベートな時間を大事にしてほしいと、食事は朝夕部屋出しで提供する。夕食は地元信州の素材を生かした会席料理。岩佐さんが太鼓判を押す料理の腕を振るうのも主人だ。「元は素人だった」と笑うが、その料理がおいしいと評判になった。「野沢菜のマスカルポーネ」、「花芽山葵醬油漬(わさびしょうゆづ)け」などが並ぶ前菜は宝石箱のよう。地の食材をさまざまな味つけで少しずつ楽しめる。その場で温める名物の茶わん蒸しはふわふわでとろけるような食感。「信州大王岩魚(いわな)」や「信州サーモン」など養殖魚のおいしさにも驚かされた。野菜や果物も松本市を中心とした長野県産。おいしいだけでなく、ここでしか食べられないものにこだわる。

「野沢菜のマスカルポーネ」、「花芽山葵醬油漬づけ」などが並ぶ前菜は宝石箱のよう
その場で温める名物の茶わん蒸しはふわふわでとろけるような食感

地酒のメニューも豊富で、利き酒師の資格を持つ若女将(おかみ)がお客の好みを聞き、料理に合った酒やワインを勧めてくれる。歴史ある宿だけに、先祖代々伝わる古美術品や松本城ゆかりの品々も多数所蔵している。館内に展示すると古美術に囲まれた宿と話題になり、今はギャラリーも設けている。

富士乃湯ならではの魅力は、少しずつ浸透し、リピーターも増えている。築50年以上の小さな和風旅館には、絶景の露天風呂も豪華な客室もないが、いい湯とおいしい料理ときめ細やかなもてなしに、心安らぐ。旅好き、温泉好きにはたまらない、極上の宿だった。

文/高崎真規子 写真/三川ゆき江

松本出身の西郷孤月の掛け軸が展示された館内のギャラリー。テレビ 東京「開運!なんでも鑑定団」で2000万円と鑑定された作品もある

富士乃湯

住所:長野県松本市浅間温泉3-13-5
TEL::0263-46-1516

料金:1泊2食平日1万9950円~、休前日2万2150円〜
客室:全8室
食事:夕食・朝食=部屋
泉質:アルカリ性単純温泉
貸切:貸切風呂「富士」(無料)
交通:篠ノ井線松本駅からバス25分、浅間温泉下車徒歩5分/長野道松本ICから13キロ

※掲載時のデータです。

(出典:旅行読売2022年12月号)
(Web掲載:2023年7月28日)

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Writer

高崎真規子 さん

昭和の東京生まれ。80年代後半からフリーライターに。2015年「旅行読売」の編集部に参加。ひとり旅が好きで、旅先では必ずその街の繁華街をそぞろ歩き、風通しのいい店を物色。地の肴で地の酒を飲むのが至福のとき。本誌連載では、大宅賞作家橋本克彦が歌の舞台を訪ねる「あの歌この街」、100万部を超える人気シリーズ『本所おけら長屋』の著者が東京の街を歩く「畠山健二の東京回顧録」を担当。著書に『少女たちはなぜHを急ぐのか』『少女たちの性はなぜ空虚になったか』など。

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