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旅へ。(最終回 佐渡とトキ)

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旅へ。(最終回 佐渡とトキ)

青空を優雅に舞うトキ

 

絶滅から復活、大空を舞う トキと人間がともに暮らす島

佐渡島(新潟)の朝、甲高い鳴き声で目が覚めた。日本海を望むホテル5階の部屋から見渡すと、松林の上空を白い鳥がゆっくり旋回している。赤い顔、湾曲した嘴(くちばし)、後頭部の冠羽(かんう)。学名「ニッポニア・ニッポン」、日本書紀にも「桃花鳥(つき)」の名で登場する鳥の風切羽は朝日を浴びて、曙色に輝いていた。

江戸時代の染色指南書「手鑑模様節用(てかがみもようせつよう)」に「とき羽色一名志ののめいろ」とある。鴇羽(ときは)色(朱鷺=とき色)は夜明けの曙に染まる東雲(しののめ)の色に似ているという。トキはその当時、どこにでもいる、ありふれた鳥だった。農家にとっては田畑を荒らす害鳥、美しい羽目当ての乱獲で激減しても、消えゆく小さな命を顧みる人はいなかった。佐渡の保護センターが中国から贈られたつがいの人工孵化(ふか)と繁殖に成功し、最初の10羽が放鳥されたのは2008年9月のことだ。トキは絶滅から復活し、佐渡では今、480羽が自然の中で暮らしているという。

日本最後のトキ餌付けの地の石碑

「日本最後のトキ餌付けの地〜宇治金太郎さんとキンちゃんの碑〜」̶̶ 広大な田園風景の中にたたずむ石碑には、半世紀も前に紡がれた物語が刻まれている。宇治さんは1967年の夏、1羽の幼鳥と出会った。大雪となった冬も毎朝4時に家を出て、夕方ねぐらに戻るのを確認してから帰宅する。トキは、松の枝から舞い降り、手のひらのドジョウをついばむようになった。捕獲を頼まれた時も、命を守るためとわかっていたが、檻の中に閉じ込めると思うと、なかなか実行に移せない。出会いから127日、彼は心を鬼にして、小さな体を抱きかかえた。トキは「クア」と小さく鳴いただけで、静かに身を任せたという。

「世界一の裏切り者ですっちゃ」。彼は自分を責め続け、84年に81歳で亡くなった。幼鳥は金太郎の一文字をもらって「キン」と名付けられ、2003年10月、ケージの中で一生を終えた。推定36歳。人間なら100歳を超えていたという。

佐渡に伝わる日本最後のトキの物語を知る人も少なくなったが、小さな命を必死で守ろうとした先人の思いはこの地に今も生きている。人とトキがともに暮らす。鴇羽色、朱鷺色の記憶とともに、日本の原風景がよみがえろうとしている。

 

※この連載は今回が最終回です。

 

(出典:「旅行読売」2022年10月号)

(Web掲載:2023年7月26日)

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Writer

三沢明彦 さん

元「旅行読売」編集長

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