【ミニシアターのある町】青梅に復活した映画館 CINEMA NEKO(シネマネコ)
築85年超の旧都立繊維試験場の擬洋風木造建築の建物を改修した映画館。装飾が施された外観は当時のままだ
「猫町」に半世紀ぶりに復活した木造映画館
旧青梅(おうめ)街道沿いの商店街を中心にひと昔前は「映画看板の町」として町おこしをしていた青梅市。かつて養蚕が盛んでネズミ除けに猫を大切にしていたことから、今は「西ノ猫町」を謳(うた)っている。2021年6月にオープンした映画館「CINEMA NEKO(シネマネコ)」は、そんな青梅の「物語」を名前に反映している。
代表の菊池康弘さんは青梅市で育ち、俳優業を経て、地元に戻って居酒屋を開業した。「食もエンターテインメント」という菊池さんの店は、地元の人たちに支えられて繁盛した。常連客の「昔は映画館が3館もあったのに、今はどこにもない」「また青梅で映画が観たい」という言葉を受け、「じゃあ俺、造りますよ」。酒の席でのこの言葉がきっかけとなって映画館づくりは現実となる。「自分の夢というより、商売を支えてくれた人たちに対する感謝、恩返しの気持ちだった」と菊池さんは言う。
国の登録有形文化財でもある、青梅織物工業協同組合所有の建物を紹介され、土台からの耐震補強や、断熱処理などを施してリノベーションした。初めての映画館づくりに加え、コロナ禍での緊急事態宣言など次々と困難に遭ったが、商売で積み重ねてきた人脈を活かし、多くの人の協力と、閉館した劇場のイスを譲り受けるなどの幸運もあり、カフェを併設した映画館が完成した。
上映作品は、お客さんのリクエストやスタッフの提案も聞いて菊池さんが決める。「映画『ノッティングヒルの洋菓子店』を観たあと、ケーキを食べながら映画について語り合いたい」というパティシエであるお客さんの持ち込み企画に応え、映画の中に登場したケーキを再現してもらい、カフェで提供するイベントを行ったこともあった。
「子どもたちに、映画は面白い、映画館は楽しいという体験をしてもらう機会を設けたい」と、菊池さんの目はより若い世代に向いている。「いろいろな人生を疑似体験できる映画は、タイムパフォーマンスなどの価値観では計れない」と、後世に残る名作がかけられる場所を守る決意を熱く語った。
文/田辺英彦 写真/三川ゆき江
あわせて寄りたい施設
昭和の風景をイメージした山本高樹作のジオラマや、猫を題材にした有田ひろみ・ちゃぼの墨絵とぬいぐるみ作品を展示。斜向かいに昭和レトロ商品博物館もある。
■10時〜17時/ 月・火曜休/250円(2館共通券500円)/青梅線青梅駅から徒歩6分/TEL:0428-24-2465
※掲載時のデータです。
【スクリーン数】1(63席)
【定休日】火曜休
【入場料】1900円(シニア1300円、毎月1日1100円、水曜1200円、毎月2・12・22の2が付く日1000円)
【交通】青梅線青梅駅から徒歩15分、または東青梅駅から徒歩8分
【住所】青梅市西分町3-123
【問い合わせ】TEL:0428-28-0051
(出典:旅行読売2023年9月号)
(Web掲載:2023年9月29日)