【私の初めてのひとり旅】戸田菜穂さん 箱根(2)
富士屋ホテルは館内の装飾でも伝統の重みを感じさせる。日本庭園の景色とも調和している
「旅の体験を俳句の世界観に生かしています」
富士屋ホテルや日光の金谷ホテルのようなクラシックホテルも好きですが、古民家風の宿もいいですね。昔ながらの太い梁(はり)があったり、趣があって好きなんです。そういう宿に本を持って行ってひとりの時間を満喫します。あとは温泉に入っておいしいものを食べて。よいお店を見つけるのも得意なんですよ。
広島の実家の目の前にある祖父母の家が明治時代の建物なので、原風景というか、古い建物は落ち着きます。漆喰(しっくい)の壁とか洋館も見ているだけで、ああいいなあって。ぴかぴかの新しいものは得意じゃないです。建築物以外も古いものに興味があります。趣味で俳句も作っています。旅先では詠まないのですが、脳裏に焼き付いたものや、体験をのちのち俳句の世界観に生かしています。
「春の月 チャイナドレスの 切れあがる」
これは以前、香港で目にした情景をイメージして詠みました。感性を常に研ぎ澄ませるのが旅なので、仕事にも俳句にもとてもいい影響を与えていると思っています。
「旅に行くと一日が充実して密度の濃い時を過ごせます」
ひとりでのんびりする時間も大切にしていますが、刺激を受ける旅も好きです。パリに行った時は、かなり出歩きます。美術館に行ったり、知り合いにホームパーティーに呼んでもらったりすることもあります。パリのホームパーティーは、市場でオマール海老(えび)などを買ってサラダ、パン、ワイン、チーズと、割と手間をかけないんです。こんなふうに気軽にパーティーするのもいいなあって影響を受けて、帰ってからしばらくは家の中がフランスみたいになるんです。
パリはマダムがカッコいいですね。たたずまいとか所作とか。20歳の頃にカフェで見て刺激をいっぱいもらいました。久しぶりにまた行きたいです。今でもそんなふうに感じるのか確認してみたいですね。
パリのほかにも海外はたくさん行きました。ベトナム、タイ、香港、ハワイ。イタリアもフィレンツェやべネチアとか。家にいると一日があっという間に過ぎるんですけど、旅に行くとあれも見たい、これも見たいって一日がすごく充実して、すべて吸収したいという感じになる。たまにそういうところに身を置くのもいいですよね。心身ともにしゃきっとするし、スポンジのようにたくさん吸収して帰って、日常生活に生かせればいい。ずっと同じ場所にいるよりは、いろんなところに行っていろんな経験をする方が密度の濃い時を過ごせます。
話・写真/戸田菜穂
聞き手/山脇幸二
(出典:「旅行読売」2023年10月号)
(Web掲載:2023年10月20日)