【私の初めてのひとり旅】戸田菜穂さん 箱根(1)
とだ・なほ [女優]
1974 年、広島県出身。高校時代にホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリに輝き、91 年にテレビドラマで女優デビュー。NHK連続テレビ小説「ええにょぼ」でヒロインを演じて人気を集め、その後も映画、テレビなどで活躍する。俳句が趣味で、俳人・大高翔さんとの共著『恋俳句レッスン 俳句は恋を育てる』(マガジンハウス)がある。
「ひとり旅で大人になれると思ったのかもしれません」
歴史ある古いものがもともと好きなんです。だから、箱根の富士屋ホテルにはずっと憧れていて、20歳の時に訪ねてみました。それが初めてのひとり旅でした。格式の高いクラシックホテルにひとりで泊まるのは、大冒険でした。まだ大学生だったので、母に電話で予約してもらってドキドキしながら行ってきました。その頃はドラマの撮影が忙しくて成人式に出られず、振り袖も着られませんでした。20歳の記念に残るようなことをしたかったんですね。ひとり旅に出れば大人になれると思っていたのかもしれません。
もう30年近く前なので、細かいことはよく覚えていないのですが、ホテルの近くをちょっと散歩したくらいで観光みたいなものはしなかったと思います。ホテルを目当てに、ゆっくりしたいと思って行ったので。夕食は大広間でフレンチのコースをいただいたんですが、周りは家族や友人同士のグループばかりで、ひとりの客は私くらい。ポツーンとして、寂しくなりましたが、後悔はありませんでした。ずっと来たかったホテルに来られたわけですから。
「何も考えずに無になるというのは大事な時間だと思っています」
箱根に行けたことで自信がついたのか、その後はパリにもひとりで行きました。大学でフランス語を専攻していたこともあり、行ってみようと。背伸びしてホテル・リッツに泊まったんですが、サンジェルマン・デ・プレでお土産を大量に買ったら雨が降ってきて、紙袋が破れて道に散らばり、自分で拾い集めて……。孤独を感じましたね。誰も助けてくれない異国なんだなあって。
子どもの頃から家族旅行にはたくさん行きました。広島出身なので、道後温泉(愛媛)や玉造温泉(島根)、九州にも。友達と行くと気を使ってしまうので、家族かひとりですね。ひとり旅は自分と対話するというか、何も考えずに無になるというのは大事な時間だと思っています。今も年に1回くらいですが、時間が空いた時には、子どもに「ママちょっと行ってくるよ」と断ると、主人も「いいよ」って快く送り出してくれます。
話・写真/戸田菜穂
聞き手/山脇幸二
(出典:「旅行読売」2023年10月号)
(Web掲載:2023年10月19日)