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【旅と駅弁・駅麺】代替わりで復活、自慢のだしも健在 川村屋 <桜木町駅>

場所
> 横浜市
【旅と駅弁・駅麺】代替わりで復活、自慢のだしも健在 川村屋 <桜木町駅>

川村屋の味を守る笠原さんと娘の加々本さん

 

看板メニューは、山梨のブランド鶏のムネ肉を載せたとり肉そば

前身の洋食店時代を含めて創業123年の歴史を刻んできた横浜・桜木町駅の老舗が、2023年3月に閉店した。営業最終日には、1800人ものファンが〝最後の一杯〟を食べようと訪れたという。

6代目当主の笠原成元(しげもと)さんは「駅そば店の運営は肉体的にも精神的にも激務です。休みは年末年始の5日間だけ。こんなに大変な仕事を子どもたちに継がせようとは思えませんでした」と話す。家族会議を開くこともなく、70歳の節目を迎えるタイミングで閉店を決断したのだった。

これに待ったをかけたのが、笠原さんの次女の加々本(かがもと)愛子さん。当時、勤めていた大手IT企業で休暇を取得し、育児に専念していた。店の経営を引き継ぐのは難しいと考えていたが、夫に「継ぐのなら全面的に協力する」と背中を押され、決意を固めた。

店内が満席になると外のテーブルまでお客さんがあふれ出す

子どもを預ける保育所を確保し、9月には営業再開にこぎつけた。加々本さんは、「長年親しまれてきた川村屋の味をなくしたくない、ファンの方々をがっかりさせたくないという一心でした」と胸の内を明かす。学生時代には自らもアルバイトとして厨房(ちゅうぼう)に立ち、まかないで食べるそばが楽しみだったという。

看板メニューは、山梨のブランド鶏のムネ肉を載せたとり肉そば。さっぱりしたうまみが特徴の一杯で、加々本さん自身も一番の大好物と太鼓判を押す。鶏肉は鮮度が重要だ。産地で頭を落として羽をむしり、横浜市内でさばいてすぐに店舗へ納入してもらう。店内でひと口大にカットし、一晩ヨーグルトに漬け込んでから醤しょう油ゆ ベースの味付けで煮る。これで、繊細な味わいと弾力を残しつつパサつきを抑えた、上品な仕上がりとなる。

看板メニューのとり肉そば。だしが命だ
そばをゆでたら手早く湯切りする
とり肉そばと並ぶ人気メニューのてんぷらそば

川村屋の命である、天然だしから作る自家製つゆも健在だ。天然だしは作り手によって風味が微妙に変わるので、一度は店を離れた〝だし取り名人〟の職人たちが戻ってきてくれたことは何よりの幸いだった。

復活後は想定を大きく上回る客数で推移している。店の経営や仕入れの調整などで忙殺され、うれしい悲鳴を上げる日々だ。当面は笠原さんが加々本さんをフォローし、軌道に乗ったところでバトンを渡す予定という。やがて7代目当主となる加々本さんは、川村屋の歴史にどのようなページを重ねていくのだろうか。駅麺ファンにとって、まだまだ楽しみは尽きない。

文・写真/鈴木弘毅

駅そばライター/鈴木弘毅

川村屋
店舗:根岸線ほか桜木町駅南改札外(シァル桜木町)
営業:7 時30分~20 時15分( 日曜、祝日は8時30分~20時10分)/12月30日~1月3日休
問合せ:045-201-8500

※掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2023年12月号)
(Web掲載:2023年11月29日)

Writer

鈴木弘毅 さん

1973年、埼玉県生まれ。中央大在学中に旅の魅力に目覚め、独自の旅のスタイルを提唱する「旅のスピンオフライター」として活躍。駅麺、駅カフェなど「鉄道系グルメ」についての著書が多数。中でも駅そばには愛着があり、幼少期から3000軒以上を食べ歩き、「駅そば研究の第一人者」とも言われる。

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