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【強く美しい 日本刀に導かれ】この春みられる 英雄・武将が手にした名刀-三日月宗近、日光一文字ほか-

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【強く美しい 日本刀に導かれ】この春みられる 英雄・武将が手にした名刀-三日月宗近、日光一文字ほか-

自分が好きな武将や英雄が手にした名刀を知ることで、刀剣の世界へのトビラが開く。知れば、実物を見たくなる。今年の春にかけて、実際に見られる英雄・偉人が手にした名刀と、刀にまつわるエピソードを紹介します。

 

直江兼続と三日月宗近<国宝>

伝説の刀工が手掛けた「天下五剣」の筆頭

東京国立博物館所蔵 出典:国立博物館所蔵品統合検索システム

<太刀 銘 三条>
◎刃長:80センチ
◎反り:2.7センチ
◎作者:三条宗近
◎作刀時代:平安時代
◎所蔵:東京国立博物館

「天下五剣」と呼ばれる名刀がある。源頼光が大江山の酒呑童子(しゅてんどうじ)の首を切った時に使ったとされる童子切安綱(やすつな)、北条時政が夢に出てくる鬼を斬ったとされる鬼丸、足利将軍家の家宝であった太刀で、後に加賀前田家にわたり家宝となった大典太(おおてんた)、日蓮上人が護身用として信者から贈られたという数珠丸、そしてこの三日月宗近である。

平安時代の山城国(京都府)三条にいたとされる伝説的な刀工、三条小鍛冶宗近の作品とされている。宗近は三条派と呼ばれる刀工の始祖とも言われている。刀身の随所にある三日月形の打除(うちの)け(刃文<はもん>の一種)が名前の由来だという。長く、切先(きっしゃき)に向けて細くなる刀身は見るからに優美で、天下五剣でも屈指の美しさを誇る。

与板歴史民俗資料館(新潟県長岡市)に立つ直江兼続像

足利将軍家に伝わったのち、豊臣秀吉の手を経て妻の高台院が所有。その遺品として徳川将軍家に献上されたとされるが、こうした伝来のほかにも、三日月に向かい「七難八苦を与えたまえ」と祈念した山中鹿介(しかのすけ)が所有したとの逸話もある。また、上杉景勝の重臣で、名軍師の誉れも高かった直江兼続が一時、所有していたとの逸話もあるが、詳細は分かっていない。

<ここへ見に行こう!>
東京国立博物館
会期:2024年3月3日まで
上記会期中、本館13室にて展示。ほかに三日月宗近の鞘(さや)、重要文化財の短刀・太刀・刀・脇差6振をはじめ、貴重な品を展示。
開館:9時30分~16時30分(金・土曜は~18時30分)/月曜(祝日の場合は翌平日)休。臨時休館・臨時開館あり
料金:1000円
交通:山手線など上野駅公園口から徒歩10分 
住所:東京都台東区上野公園13-9
問い合わせ:TEL050-5541-8600(ハローダイヤル)


北条早雲と日光一文字<国宝>

後北条氏五代に伝わった関東の覇者の印

福岡市博物館所蔵 撮影:要 史康

太刀 名物 日光一文字
◎刃長:67.8センチ
◎反り:2.4センチ
◎作者:不明
◎作刀時代:鎌倉時代
◎所蔵:福岡市博物館

備前国(岡山県)の福岡地区(瀬戸内市)の刀工・福岡一文字派の最高傑作とも言われる作品で、無銘ながら鎌倉時代の名刀である。日光権現社(二荒山神社)に奉納されたことから、日光一文字の呼び名が生まれたらしい。福岡一文字派は丁子(ちょうじ)乱れの刃文を得意としたが、この作品にもそれが顕著に表現されている。

戦国時代の扉を開いた武将とされる北条早雲が申し受けて自らの佩刀(はいとう)とし、以後、小田原北条氏五代の家宝として伝わったという。浪人から身を起こして一代で戦国大名となったとされてきた北条早雲だが、現在では室町幕府の8代将軍足利義政の申次衆(もうしつぎしゅう)を務めた伊勢盛定の子、伊勢新九郎盛時と同一人物であったことが明らかになった。関東に進出した盛時は、新たな関東の実力者の名にふさわしい太刀として、日光権現社が所有する由緒あるこの太刀を望んだのかもしれない。

小田原駅(神奈川県)西口にある北条早雲公像

やがて北条氏は豊臣秀吉によって滅ぼされるが、小田原開城にあたり講和の仲介をした秀吉家臣の黒田官兵衛( 如水<じょすい>)に、北条氏の当主氏直が感謝の意を込めてこの太刀を贈ったという。以後、近代まで福岡藩黒田家に伝来した。

<ここへ見に行こう!>
福岡市博物館
黒田家名宝展示 国宝 太刀 名物「日光一文字」
会期:2024年2月14日〜3月3日
「黒田家名宝展示」のコーナーでは、同館の重要なコレクションの一つである福岡藩主黒田家に伝来した黒田家資料を中心に展示。
開館:9時30分~17時/月曜(祝日の場合は翌平日)休
料金:200円
交通:地下鉄空港線西新駅から徒歩15分 
住所:福岡県福岡市早良区百道浜3-1-1
問い合わせ:TEL:092-845-5011


豊臣秀吉とじゅらく(太閤左文字)<国宝>

日本刀コレクター秀吉が愛した短刀の名作

短刀 銘 左/筑州住 号 じゅらく(太閤左文字)
◎刃長:23.6センチ
◎反り:わずか
◎作者:左文字
◎作刀時代:南北朝時代
◎所蔵:ふくやま美術館(小松安弘コレクション)

左文字(さもじ)一派は、鎌倉時代後期から室町時代初期にかけて、筑前国(福岡県)で活躍した刀工の一派である。初期の左文字派は大和伝の作風だったが、刀工のひとり左安吉(さのやすよし)が相模国(神奈川県)の刀工正宗に私淑(ししゅく)して相州伝を修得したため、相州伝の日本刀を制作するようになったという。

織田信長の死後、その覇権を事実上引き継いで関白太政大臣にまで上り詰めた豊臣秀吉は、その権力と財力にものをいわせ、多くの名品・宝物を手中に収めて愛玩した。刀剣も例外ではなく、「天下の名刀はすべてわが蔵にある」と徳川家康に語ったほど、名刀の蒐集に執着した。

秀吉が集めた名物は「太閤御物(ぎょうぶつ)」と呼ばれるが、その中の一振がこの太閤左文字である。左文字の短刀の最高傑作といわれ、秀吉が所有したいくつもの左文字の中でこの作品だけが太閤の名を冠しているのは、それだけ秀吉が愛した証拠だろう。

大阪城豊國神社に立つ豊臣秀吉像

もともと、この刀は秀吉の養子で関白の座と聚楽第(じゅらくてい)を譲り受けた豊臣秀次(ひでつふ)が所有していたが、のちに秀吉に献上されたと記録にある。「じゅらく」の号は、それに由来するらしい。秀吉の死後は、その遺児秀頼の手にわたり、さらに家康に贈られ、息子の秀忠に譲られたという。

<ここへ見に行こう!>
ふくやま美術館
「正宗十哲-名刀匠正宗とその弟子たち-」
会期:2024年2月18日〜3月27日
正宗は鎌倉時代末期に相模国鎌倉で活動した刀工で、相州伝を完成させた。相州伝は諸国に伝播し、各地の刀工に大きな影響を及ぼし、中でも「じゅらく」を作刀した筑前国の左文字など10人を「正宗十哲」と総称。十哲をテーマとした展覧会はこれまでにも開催されてきたが、十哲全員を特集する内容は今回が初めて。
開館:9時30分~17時/月曜(祝日の場合は翌平日)休
料金:1000 円
交通:山陽新幹線福山駅から徒歩6分
住所:広島県福山市西町2-4-3
問い合わせ:TEL084-932-2345
※2月11日までは刀剣博物館(東京都墨田区)で同展を開催中。


源頼光と童子切安綱<国宝>

酒呑童子を斬り捨てた伝説の名刀

国宝 出典:国立博物館所蔵品統合検索システム

太刀 銘 安綱
◎刃長:80センチ
◎反り:2.7センチ
◎作者:安綱
◎作刀時代:平安時代
◎所蔵:東京国立博物館

「天下五剣」の中でも最もよく知られる伝説の名刀が、この童子切安綱である。洛西の大江山に住み、都に出没しては狼藉(ろうぜき)を働く酒呑童子という鬼の一味を、清和源氏の棟梁である源頼光が配下の四天王とともに退治したとする酒呑童子伝承がある。この刀はそのとき頼光が手にした刀であるとされ、呼び名の由来となった。頼光は武士であるが、藤原道長の側近として摂関家を支える貴族的な人物でもあった。

源頼光(『頼光四天王大江山鬼神退治之図』〈国立国会図書館蔵〉より)

安綱は平安時代の中期に活躍した伯耆(ほうき)国(鳥取県)の刀工で、その作品は平安時代の特色をよく表し、細身の刀身が、手元に近い部分で大きく反る「腰反り」が強い。

その後、この刀は室町幕府の足利将軍家に伝わった。13代将軍足利義輝は、自ら幕府の政治を取り仕切ろうとするが、これに反対する三好三人衆らの襲撃を受け、殺害される。将軍の身ながら剣豪・塚原卜伝(ぼくでん)に剣術を学んだ義輝は、足利家伝来の名刀の数々を畳に突き刺し、襲ってくる敵を次々に切り捨てた。義輝が最後に手にした刀が、この童子切安綱であったとも言われている。その後は信長、秀吉、家康などの手を経て、津山藩松平家に伝来した。

<ここへ見に行こう!>
東京国立博物館
会期:2024年3月5日〜5月26日
上記会期中、本館13室にて展示予定。
開館:9時30分~16時30分(金・土曜は~18時30分)/月曜(祝日の場合は翌平日)休。臨時休館・臨時開館あり 
料金:1000円 
交通:山手線など上野駅公園口から徒歩10分 
住所:東京都台東区上野公園13-9
問い合わせ:TEL050-5541-8600(ハローダイヤル)

文/安田清人


※料金等すべて掲載時のデータです。

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(出典:「旅行読売」2024年3月号)
(WEB掲載:2024年1月30日)


Writer

安田清人 さん

安田清人(やすだ きよと)
1968年、福島県生まれ。明治大学文学部史学地理学科で日本中世史を専攻。月刊「歴史読本」(新人物往来社)などの編集に携わり、現在は編集プロダクション「三猿舎(さんえんしゃ)」代表。歴史関連メディアの編集、執筆、監修などを手掛けている。

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